勉強法

生徒の学習動機は何から生まれるか?

目次

  1. 背景
  2. 内発的モチベーションと外発的モチベーション
  3. 教育における内発的モチベーションと外発的モチベーション
  4. 外発的モチベーションの分類:自律感との関係性
  5. 自律感を高めるために

1.背景

人間は能動的であったり、受動的であったりする。では、生徒の学習動機(モチベーション)は何から生まれるのか?本稿では、Web of Scienceの被引用回数18,895回を誇るRyan&Deni(2000)自己決定理論の研究と参考サイトを基に生徒の学習動機についてまとめる。

2.内発的モチベーションと外発的モチベーション

モチベーションは2つの種類がある。1つ目は、内発的モチベーション、2つ目は、外発的モチベーションに分類される。モチベーションとは、人が目的に向かう行動を促す力のことを指す。その内の1つである、外発的モチベーションは、外的要因によって行動が促されることを指す。具体的には、先生に怒られたから宿題をやる等である。内発的モチベーションは、外的要因ではなく、自分の内なる感情や価値観によって行動が促されることである。例えば、気になっている異性がいるのでデートに誘ってみる等である。

3.教育における内発的モチベーションと外発的モチベーション

一般的に、外発的モチベーションよりも、内発的モチベーションを原動力として行動する方が好ましいとされている。約50年間近くに渡る実験や研究でも内発的モチベーションを原動力として勉強する生徒は外発的モチベーションによって勉強する生徒と比べて高い創造性や学習成果を示すことが示されている。 しかし、内発的モチベーションを基に生徒に勉強してもらうことが理想ではあるが、それは現実的なのかという疑問が発生する。Ryan&Deciも現状の教育システムでは、生徒が学ぶべきとされている学習内容の多くは内発的モチベーションを高められるようにデザインされていないと述べ、加えて、必ずしも外発的モチベーションを動機として学ぶことは悪ではないと指摘している。詳しく説明すると、外発的モチベーションにも様々な種類があることを指摘し、自律感が高まっている状態での外発的モチベーションによる学習であれば、十分効果的な学習効果を得ることができると述べている。

4. 外発的モチベーションの分類:自律感との関係性

外発的モチベーションは自律感(autonomy)の度合いに応じて、4つに分類することが可能である。自律感とは、当事者(生徒)が自分で自身の行動を制御できていると感じる程度のことを指す。

第一に、外的制御(external regulation)である。外部から提供される報酬を得たり、他者からの要求に応えられるために行動を起こしている状態のことを指す。例えば、給料のために仕事をするなどが考えられる。

第二に、無意識的制御(introjected regulation)である。周囲からのプレッシャーによる罪悪感や不安から身を守るため、もしくは自身のプライドを守るために行動を起こしている状態のことである。具体的には、周囲の目線が気になり、ダイエットをするなどである。

第三に、外的価値の理解(identification)である。その行動の価値を理解した上で、自分のものとし、行動を起こしている状態のことである。例えば、健康を保つために、苦手な野菜を食べることが考えられる。

第四に、外的価値と自己の価値観の統合(integrated regulation)である。内省・自己観察を通じて、その行動の背景にある価値観と自己の価値観を完全に統合できている状態のことである。この状態においては、本人は外的要因によって制御されているという感覚はなく、自ら選択し、行動していると感じている。例えば、将来国際機関に入るという夢をかなえるために、英語を勉強するなどである。まとめると、①外的制御が最も自律感が低く④外的価値と自己の価値観の統合が最も高いと言える。一見すると④が内発的モチベーションと一緒だと感じてしまうかもしれないが、④において、あくまで対象となる行動は手段であり、目的ではない。(将来、国際機関になることが目的であり、英語の勉強はその手段となる。)その行動そのものに本質的な魅力を感じていないが、自身の価値観の実現のために必要なものと理解し、進んで行動を取っている状態のことを指す。この分類に関しても、実証実験が行われ、学びの外的価値を理解・統合している生徒(外的価値の理解・外的価値と自己の価値観の統合の状態)ほど、そうでない生徒に比べて学習に対する努力・関心・喜びを示すということが分かっている。では、生徒の自律感を高め、行動の価値を内面化するためにはどうすれば良いのか?

5. 自律感を高めるために

筆者は、自律感を高めるための2つの要素として、周囲への帰属意識と自己効力感という2つの要素を上げている。まず、周囲への帰属意識である。私たちが新しい行動の価値を理解し、自己の価値観と統合しようと思う最たる理由は、私たちが近しいと思っている人々にその行動の価値が認められていることがある。つまり、自分が大切に思っている人たちに価値が認められている行動は自分も自ら価値を見出そうとしがちということである。この条件を満たすためには、当事者が価値観を共有できるコミュニティ・文化が周囲に存在することが必要である。

2つ目の自己効力感は、とある行動の価値を内面化しようと思うためには、その行動を取り得るための能力を自身がそもそも持ち合わせているという意識が必要となる。例えば、野球ができない人に野球の素晴らしさを周囲が説いたとしても行動に移さないことが挙げられる。このように、行動の内面化・自律感の担保のためには、当時者にその行動に対する自己効力感があることが必須条件となる。まとめると、生徒の自己効力感を高める・クラスでの安心感や帰属意識を高めるという行為は生徒の自律感を高め、外発的なモチベーションの内面化を促す上で非常に重要な役割を担っている。

【参考文献】

Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78. https://doi.org/10.1037/0003-066X.55.1.68

【参考サイト】

教育のスゴい論文 生徒のモチベーションについて考える時に私たちが知っておくべきこと

https://note.com/sugo_ron/n/n53ee32804744

<文=末田椋資>

当ライターの前の記事はこちら:ご褒美と勉強

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