社会保険

年金制度に対する国民の不信と対策

令和7年度の年金制度改正法が成立し、各メディアやSNSで、公的年金制度を巡る議論が活発になっています。被用者年金の適用拡大や標準報酬月額の上限引き上げ、遺族年金の有期給付化等が決定しました。所得の再分配機能を高めることを目的とした改正ですが、SNS 上では反対意見も多く見られます。

筆者は、年金事務所の現場で学生から高齢者まで幅広い世代と接する中で、年金制度への不信の声を浴び、誤解の広まりを実感してきました。
本稿では、そうした現場の感覚をもとに、代表的な誤解とそれに対する考え方を整理します。

目次

  1. 年金に対する国民の不信
  2. 「破綻論」「払い損」に対する考え方
  3. 背景
  4. 対策

1.年金に対する国民の不信

年金事務所の窓口やセミナーで寄せられた声で、次のような意見が頻出しました。

「年金制度は将来破綻するのに、保険料を払えと言われる筋合いはない」

「年金は必要ないのでなくしてほしい」

「国の言うことはきれいごとばかりで現実的でない」

SNS上でも同じような意見が見られますが、年金制度に対する不平・不満の多くは誤解に基づいています。その言葉の定義や程度による面もありますが、基本的には極端な考え方によるものです。

2.「破綻論」「払い損」に対する考え方

年金に対する国民の不信は以下の2つに大別されます。

・年金制度は破綻する

・納付した保険料の総額よりも給付額が少なくなり、払い損になる

①根拠のない年金破綻論

「少子高齢化だから年金制度は破綻する」と考えるのは早計です。確かに、日本では少子高齢化が進行しており、現役世代と高齢者のバランスが崩れると年金制度の維持は難しくなると考えるのが自然です。

しかしこの主張は、「年金制度の財政が人口統計だけに依存しているわけではない」という視点が欠けています。年金給付は、出生率や死亡動向だけでなく、物価や賃金、運用利回り、労働力に大きく影響されます。また、年金給付の財源は現役世代から徴収する保険料だけで賄われているわけではありません。

日本の公的年金は、現役世代の保険料で受給世代を支える「賦課方式」を基本としつつ、厚生年金を中心に積立金を併用する「修正賦課方式」を採用しています。
この積立金は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用し、2024年の財政検証では約300兆円規模に達しました。財政検証の結果、標準的な経済成長シナリオでは所得代替率(現役世代の手取りに対する年金額の割合)は50%以上を維持するとされ、破綻とはほど遠い結論となりました。

近年は定年引き上げの傾向もあり、60歳を超えても働いている方が増えています。60代後半でも約半数の男性が働いているというデータもあり、70歳定年制を導入する企業もあります。20年ごとにリタイア年齢が5歳ずつ上がると仮定すると、約40年後には75歳が定年となります。このとき「75歳以上」を高齢者と定義すると、高齢化率は現在よりも低い水準になります。つまり、高齢者の働き方が変化し、「老後」と定義する年齢が変われば、年金財政も変化するわけです。

このように、「破綻論」の根底にあるのは、人口統計学的に年金制度を維持できないという考え方です。年金制度における財政の健全性について、少子高齢化の影響のみで結論を導き出すのは間違いです。報道でも「年金破綻」といったセンセーショナルな見出しが先行しがちですが、制度の実態や仕組みを理解することが欠かせません。

② 損得論からの卒業

「保険料負担と年金給付額を比較して、世代間格差がある」という主張も多く見られます。しかし、これらの主張は根本的に間違っているといえます。年金制度は保険であり、給付の期待値と保険料を比較して個人の損得で判断する性質のものではないからです。社会保障制度は、個人の損得ではなく、社会の必要を満たすために存在するものであり、決して個人の利益を増やすためのものではありません。損得論を用いるのであれば、その損得は個人ではなく社会を基準に考えるべきです。

健康保険では、損得論を用いられることはほとんどありません。健康保険の保険給付は個人差が大きく、また病気やケガをしないと「給付の差」が生じない制度だからです。一生健康で人生を終えたとして、「健康保険料を払って損した」と思うはずもありません。

年金制度において「払い損」という感覚を抱くことに問題があり、「払った保険料を取り戻せないと損」と考えるのは不適切です。

3. 背景

これらの年金に対する不信の背景の1つと考えられるのが、「公的年金制度が何度も不利な方向に変わってきた」という経緯です。昔に比べると、年金受給開始年齢が遅くなり、保険料負担が増えて負担と給付のバランスも悪化しています。保険料に関しては、負担が増える分、将来受け取れる額も増えると説明されますが、その根底には、少子化と長寿化の進展に伴う日本の人口構成の問題が存在します。この現象が今後も改善する見込みがない中、公的年金制度をしっかり理解していても、同制度に不信感を抱いてしまうという人がいるのも仕方がないことです。

4. 対策

国民の年金制度に関する誤解は、多くの要因があります。まず制度が複雑で、財政検証における用語「運用利回り」「マクロ経済スライド」が難解です。多くのパラメーターがあるため、一般的には「年金は破綻する」と理解されやすいという性質があります。また、報道やSNS上の悲観的な議論やセンセーショナルな見出しに惑わされる、といった要因もあります。

そのような国民に正しい理解を促すためには、年金教育の強化が有効です。しかし、国民の誤解がなくなれば、本当に年金不信を払拭できるのか、という問題もあります。公的年金制度に対してそれほど誤解はなくても不信感を抱いている人も一定数存在します。また、制度を誤解している方に反論を持ち出しても、むしろ逆効果にもなり得ます。もちろん、公的年金制度は完璧な制度ではないので、問題を抱えていることを認めた上で、制度の意義や役割を伝えていくことが大切です。他に代替できる制度がないという現実や、時代に沿って合理的な改正をしているという事実に目を向けると、制度に対する理解が深まります。情報の受け手としては、SNS上やメディアの意見に惑わされず、制度について調べたうえで様々に意見に触れることが本質を理解する第一歩です。

(参考)

厚生労働省.”将来の公的年金の財政見直し(財政検証)”

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html

<文=森 寛衆>

当ライターの前の記事はこちら:オランダ発”ニクセン”のすすめ|

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