新しいアイデアを練る時、特に独創的なものが求められている時ほど「アイデアを寝かせる作業」が必要だと言われています。
「アイデアを寝かせる」ことで、自分が意識して考えずとも無意識の領域下で自分の思考が整理されて、新しい独創的なアイデアが生まれるのだそうです。
人間が面倒を見なくても、酵母やカビの働きによって大豆が味噌になったり、ぶどう汁がワインになったり、牛乳がヨーグルトになる現象を「発酵」と呼びます。
それになぞらえて、既存のアイデアを寝かせて新しい独創的なアイデアを得ることは「思考の発酵」と表現されることが多々あります。
私自身、かねてから「思考の発酵」の有用性に触れることが多いと感じていました。そこでふと思ったのです、「一口に“発酵”といっても個人差、流派の違いのようなものがあるのではないか?」と。
そこでこの記事では、3人の作家をご紹介して「思考の発酵」についての見方や違いについて比べていきたいと考えています。
目次
- 『思考の整理学』作者の場合
- 独学のプロの場合
- 元[日本一のニート]の場合
- まとめ
『思考の整理学』作者の場合
初めにご紹介したいのは、「東大・京大で1番読まれた本」として再注目されている『思考の整理学』作者・外山滋比古(とやましげひこ)氏です。
同タイトルの中で、そのものズバリ「醗酵」という章があります。
(正確には「醗」は旧字体だったのですが、変換に出てこなかったのでこの表記でご容赦ください…。)
その中にはもちろん、本記事のテーマである「アイデアを寝かせること」=「思考の発酵」について書かれています
外山氏が「発酵」の時に重要視しているのは、「素材」と「酵母」をきちんと用意してから寝かせること。
「素材」というのは、自分が研究なり考えているテーマのこと。それがシェイクスピア作品の人もいれば、インド哲学の人もいるだろうし、ビジネスアイデアの人もいるでしょう。
一方で「酵母」とは素材と化学反応を起こすまったく異質のアイデアのこと。素材がビジネスアイデアなら、それとはまったく違った分野から酵母を用意してやる必要があります。
大切なのは、素材と酵母が同じものではいけないということ。外山氏曰く「ビールをつくるのに、麦がいくらたくさんあっても、それだけではビールができないのと同じである」。
本章には、外山氏が発酵に成功した具体例が挙げられています。そこでは素材が「シェイクスピア作品」、酵母は「デマが広まる心理」、そしてそれらが反応して得られた成果物が「異本論」というエッセイだったそうです。
(興味のある方は是非。「異本論」(外山滋比古))
このように素材と酵母の2つを一緒にしたときにはじめて「思考の発酵」が進んで成果物を取り出せるのです。
独学のプロの場合
次は『東大教授が教える独学勉強法』の著者・柳川範之(やながわのりゆき)氏の「発酵論」についてご紹介します。
柳川氏は子供のころの大部分を海外で過ごしていました。誰かに教えてもらうことが厳しかった中で独学を始めて大学の通信制課程を卒業し、最終的には東京大学博士課程を卒業(経済学博士)されています。まさに独学のプロと言えるでしょう。
そんな柳川氏は「「熟成」は勉強において一番大事な工程」と述べています。
(本書では「発酵」の代わりに「熟成」という単語が使われています。ニュアンスは同じです。)
そして「熟成」のヒントになるのが「普遍化」だといいます。
例えば、日本史で藤原一族による政治の独占について学んだとします。その史実をただ暗記しただけならそれで終わりです。しかし、そこから現代にも通じそうな要素を抽出して生活の中で役立てることで深い学びを得ることができます。
このように学んだ事実を「普遍化」すること。この作業によってインプットした内容が自分なりに理解されてきて、発酵につながるのです。「情報の普遍化」が柳川流の発酵で重要なポイントのようです。
元[日本一のニート]の場合
最後にご紹介するのは『人生にゆとりを生み出す 知の整理術』の著者・pha(ファ)氏です。
pha氏は京都大学を卒業し、就職したものの28歳のときに退職。その後は著書『しないことリスト』(大和書房)や『ニートの歩き方』(技術評論社)を出版したり、シェアハウス「ギークハウスプロジェクト」開始などの経歴を持ちます(現在は年齢の都合で統計上「ニート」の定義から外れてしまったので、元[日本一のニート]という肩書を使っているそう)。
そんなpha氏が主張するのは「休めば休むほどアイデアが出てくる」ということ。
もちろんタダでアイデアが湧いてくることはありません。「アイデアが出る休み方」は考える材料をすべて頭に入れてから休むことです。
休んでいる間に情報処理が行われるため、考えるべき材料を脳内にインプットしてから休む方がアイデアを得られる確率が高まります。pha氏は「寝ている間に脳内の小人が情報を整理してくれているイメージ」だと述べています。
アイデアに行き詰まったら、だらだらと考え続けるのではなくこまめに休んでリセットするようにした方がよさそうです。
まとめ
- 発酵に必要なのは「素材」と「酵母」
- 情報を普遍化することが、発酵につながる
- すべての材料を頭に入れた状態で行き詰ったら潔く休む
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いかがだったでしょうか。それぞれ三者三様の「発酵論」でしたが、全く別のことを主張しているのではなく、同じことについて別の切り口で語っている、という印象を受けました。
「現代は情報が氾濫している」。そのように批判めいた主張がなされることもあります。しかし裏返しに考えてみれば、発酵に必要な素材や酵母がふんだんに与えられている、という見方もできます。また自分が発酵によって得た成果物を多くの人に見てもらえるチャンスが増えているということでもあります。
「自分には独創的なアイデアを生み出すことはできっこない。自分はなんと頭のカタい人間なんだろう!」という思い込みを捨てて、「思考の発酵」にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
【参考文献】
・「思考の整理学」(外山滋比古)
〈文=早稲田大学 先進理工学部応用化学科 3年 千島 健伸(note)〉
当ライターの前の記事はこちら:なぜ温室効果の予測は難しいのか? ~単純系と複雑系という考え方~
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