社会保険に加入している会社のなかには、社会保険料を滞納する状況に陥ることがあります。では、滞納した社会保険料に「時効」が適用されれば、支払いを免れることができるのでしょうか?理論上は時効が成立するものの、実際にはほとんど成立しません。本記事では、社会保険料における時効の考え方や仕組みを解説します。
目次
- 社会保険料にも「時効」はある?
- 時効の「更新」で時効はリセットされる
- 時効を成立させないための厳しい対応
- 時効狙いの「放置」は危険
- まとめ
1.社会保険料にも「時効」はある?
健康保険法第193条および厚生年金保険法第92条に基づき、保険料の徴収権の時効は2年間とされています。
第百九十三条 保険料等を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したときは、時効によって消滅する。
e-GOV法令検索 健康保険法
第九十二条 保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したとき、保険給付を受ける権利は、その支給すべき事由が生じた日から五年を経過したとき、当該権利に基づき支払期月ごとに支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利は、当該日の属する月の翌月以後に到来する当該保険給付の支給に係る第三十六条第三項本文に規定する支払期月の翌月の初日から五年を経過したとき、保険給付の返還を受ける権利は、これを行使することができる時から五年を経過したときは、時効によつて、消滅する。
e-GOV法令検索 厚生年金保険法
このように、会社の滞納保険料であっても、2年で支払義務が消滅することになります。理論上は、2年経過で時効が成立しますが、実際には簡単なことではありません。
2.「更新」されることで時効はリセットされる
時効は、「更新(中断)」されることでリセットされます。たとえば以下のような事由があった場合、2年間のカウントは最初からやり直しになります。
- 代表者が「債務を認める」(=債務承認書への署名)
- 財産の差押え(換価、配当)
- 捜索
- 交付要求
国税の徴収権の消滅時効の起算日は法定納期限の翌日です(実務上、納期限までに納付されない保険料については、督促が行われることになるので時効がさらに延びます)。財産の差押えが行われた場合は、その金額が充当された日の翌日が起算日になります。
このように、形式上は「時効がある」とはいえ、現場では更新を繰り返すことで、事実上「時効が成立しない仕組み」になっているのです。
3. 時効を成立させないための厳しい対応
社会保険料の徴収権は、厚生労働大臣から日本年金機構に委任されています。
実際には、社会保険料の時効が成立することはほとんどありません。その背景には、以下のような理由があります。
- 時効を成立させれば、「真面目に保険料を納付している事業所」との公平性が損なわれる
- 不作為による欠損は、重大事故として扱われ、責任が追及される
- 日本年金機構には国税とほぼ同等の調査・徴収権限が与えられている
時効が成立してしまうと、真面目に納付している事業所との公平性が損なわれます。さらに、「不作為による欠損」は重大事故として扱われ、責任が厳しく追及されことになります。日本年金機構には国税と同等レベルの調査権限が与えられており、その権限を活かして対応が行われます。たとえば、財産調査においては、預貯金だけでなく取引先に対しても行われることがあります。これは、少しでも徴収の可能性を高めるための措置であり、結果として売掛金が差し押さえられるケースもあります。 このように、徴収職員は法的根拠に基づいて、あらゆる手段を講じて時効の成立を防いでいるのです。
4.時効狙いの「放置」は危険
「いずれ時効が成立するだろう」と安易に考え、年金事務所との連絡を断って逃げ切ろうとする経営者がいます。しかし、その間にも財産調査は着実に進み、最終的には差押えに至るケースがほとんどです。実施期間としても、「時効を成立させない」という姿勢で対応が進められます。
滞納保険料を放置すると、信用の失墜や倒産といった深刻なリスクを招く可能性があります。実際に、売掛金の差押えが引き金となって倒産に至った事例も報告されています。
5. まとめ
社会保険料には法的に「時効」の制度がありますが、実務上は時効が成立することはほとんどありません。むしろ差押えや倒産といったリスクが高まります。滞納してしまった場合でも、分割納付や猶予といった制度があるため、早めに年金事務所へ相談することをおすすめします。
<文=森 寛衆>
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