社会

CO2削減だけが環境対策か『ほんとうのエネルギー問題』

『ほんとうのエネルギー問題』

2019年9月23日、ニューヨークでは国連気候行動サミットが開催され、日本からはちょうど新環境相に就任したばかりの小泉進次郎氏が出席しました。

特に話題になったのは、スウェーデンの16歳(当時)、グレタ・トゥーンベリさんで、テレビなどで彼女のスピーチをご覧になった方は多いと思います。

今回のサミットの発起人である国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを掲げ、世界各国に有限な化石資源(石炭、石油、天然ガス)の使用を控えるよう求めています。(わざわざ「実質」としているのは「カーボンニュートラル」という考え方があるからなのですが、それはまた別の機会に。)

しかし今の日本のエネルギー事情を見ると、大部分を石油・石炭を用いた火力発電に頼っており、世界のトレンドである「二酸化炭素排出量の削減」にはそぐわない状況です。かといってそれらの燃料を使わないとなると、原子力発電に頼るしかないのですが、先の東日本大震災での事故が大きなきっかけとなり、国内では原発反対派と推進派との対立が起きています。

持続可能なエネルギー(太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスなど)が認知されるようになってからしばらく経ちますが、現実としてあまり普及してないところを見ると、技術面だけでなく、何か社会面でも問題があるようです。

本書では、エネルギー問題の真実と世界的な潮流を理解し、日本がとるべき航路について考えています。

目次

  • 温暖化の原因は本当にCO2か
  • 原子力発電の危険性
  • 世界の動き
  • 日本とエネルギーの未来
  • まとめ

温暖化の原因は本当にCO2か

「温室効果ガス排出による地球温暖化」このことは今や、多くの人が知るところではないでしょうか?この事が広く知られることになったのは、1988年にNASAのジェームズ・ハンセン氏が「99%の確かさで今後、地球は温暖化していく」と発言したことがきっかけです。彼はその原因を、人間が排出する温室効果ガス(CO2、メタンガスなど)の可能性が高いと主張しました。

しかし、その主張はあくまで仮説に過ぎない事は意外と知られていません。つまり、本当に温暖化の原因がCO2なのか分からないのです。実際に、もし仮に京都議定書で定められた「2008~2012年までの期間中にCO2排出量を1990年比マイナス6%」という目標を達成したとしても、気温上昇をほんの少し遅らせる程度の効果しか見込めないと指摘されています。

このことを踏まえると、今の私たちが重点を置いて考えるべきなのは「CO2削減」ではなく、「新エネルギーの開発」なのです。

原子力発電の危険性

化石燃料を使わないのでCO2排出量が少なく、大規模な発電が可能な「原子力発電」。2030年までの長期を視野に入れて策定された「新・国家エネルギー戦略」では、原子力発電を推進する方向を示しており、全発電量の30~40%を原発で賄うことが計画されています。

しかし過去に起きた悲惨な原子力発電施設での事故を忘れてはいけません。2011年の東日本大震災に伴う福島第一原発の事故をはじめ、それ以前にも1979年のスリーマイル島原発(米)、1986年のチェルノブイリ原発(旧ソ)などでも大規模な事故が発生しています。特にチェルノブイリ原発事故では広範囲(半径数百km)に放射性物質が拡散され、「史上最悪の原発事故」と言われています。

更に、もし事故が発生しなかったとしても大きな問題が残ります。それは放射性廃棄物の処分の問題です。原子力発電では燃料としてウランを使いますが、これを反応させてエネルギーを取り出した後は、その「燃えカス」として高濃度の放射性廃棄物が発生します。これらはガラス固化された後、六ケ所村(青森)と東海村(茨城)の管理センターで保管されます。更に、原子炉を解体する際にも大量の放射性廃棄物が発生します。原発の寿命は60年と言われているので、1970年代に原発建設ラッシュが起きた日本は、残り10年もすれば「原発の一斉廃炉問題」に直面する事になるでしょう。一斉廃炉の際に生じる廃棄物の量たるや、一体どれほどになるでしょうか。慎重に作業を進めなければならないので、これらを安全に処分するには、同じ量の通常廃棄物よりも多くのコストと労力が必要となります。

このように原発運営は運転中だけでなく、廃炉作業が始まってからも常に危険と隣合わせです。いくらCO2排出量が少ない「クリーンな」発電方式だとしても、安全管理や事故の処理に多額のコストが生じる事を考慮すると、本当に優れた発電方式と言えるのでしょうか?

世界の動き

では他の国々では、一体どのようなエネルギー政策を進めているのでしょうか?アメリカ、EU、ロシア、ドイツ、フランスを例に具体的に見ていきます。

アメリカ

「超大国」にふさわしく、エネルギー消費量も世界一。2003年のデータによると、エネルギーの約40%を石油に頼っています。石油の輸入国は主に中東諸国ですが、中東情勢の不安定さなどを考えると、そこにばかり依存するのはリスクが高いので、輸入国の分散を進めています。石油への依存からの脱却も図るため、エネルギー源自体の分散も進めています。他のエネルギー源としては主に石炭、原子力が挙げられています。それ以外の新エネルギー開発も盛んにおこなわれており、例としては風力や太陽、地熱などが挙げられます。特に風力発電は大規模発電に成功しており、2006年時点でテキサスでの風力発電量がカリフォルニアでの発電量を上回ったとの報告もされています。

EU

全体の方針としては「省エネルギー」を掲げています。2020年までにエネルギー消費量を20%削減するという目標を設定しています。また一度は脱原発の方向に進んでいましたが、ロシアからパイプラインで送られてくる石油に依存している状況の脆弱性が指摘されるようになり、新規の原子炉の建設や運転開始が進められるようになりました。

ロシア

ロシアは豊富な天然資源を持ち、国家が世界最大の天然ガス企業「ガスプロム社」の利権を握っています。つまりエネルギー産業の莫大な利益が即、国家の財源を潤す仕組みを作り上げているという事です。今後の方策としては2つあり、一つはエネルギー輸送のインフラの整備。もう一つはエネルギー源の分散です。今のロシアの電力源は主に天然ガスなのですが、石炭や原子力、再生可能エネルギーへの転換を目指しています。

ドイツ

ドイツの政策の要は「再生可能エネルギーの利用」です。逆に原子力発電や、CO2排出の原因となる火力発電の割合を削減していく方針です。ドイツでは法制度を変革することで目標達成へと着々と歩を進めています。例えば「再生可能エネルギー法」施行以来、個人が自家太陽光パネルで発電した電気を、電力会社が高値で買いとる義務を負うシステムを作り上げ、太陽光パネルの普及を成功させました。また電力会社とエネルギー企業が再生可能エネルギー取引を進める事が義務化されました。これにより太陽光をはじめとして風力、水力といった再生可能エネルギーの生産企業が増加傾向にあります。

フランス

先ほど一時はEUが脱原発に向かったと紹介しましたが、その状況下でも一貫して原発を推進していたのがフランス。そうせざるを得ないのは日本同様に資源に乏しいからです。2015~2020年にかけて現行の原発より安全性とエネルギー効率に優れ、廃棄物量の少ない方式に移行するとしています。そのため今後50年ほども原子力をエネルギー供給の根幹に据えていく事は間違いなさそうです。しかし原子力のみをあてにしているという事でもなく、「グルネル合意2015」では太陽光、風力といった再生可能エネルギーのみで特定地域のエネルギー消費量をまかなう事が目標としています。

日本とエネルギーの未来

それでは、日本はどうすべきなのでしょうか。日本の省エネルギー技術は世界トップクラスを誇り、これ以上省エネ政策を進めても伸びしろは少ないと言われています。そして冒頭で説明したように、化石燃料の使用が環境に与える影響の大きさが疑問視され、原子力は安全上の問題が多いということから考えると、日本がとるべき政策はおのずと見えてきます。つまり日本が行うべきなのは、今ある化石燃料を使い、新しいエネルギーを研究・開発する事です。

かつて日本でも太陽光パネル普及のため、政府が補助金制度を整備しました。しかし当時は、パネル設置に200万円程度かかると言われており、一般家庭では補助金があったとしても設置が難しい状況でした。つまり何が言いたいのかというと、そういった「クリーン電力」のコストを下げて、火力や原子力といった現在主流の発電方式よりもお得な電力にしなければ、日本で再生可能エネルギーを普及させる事は難しいという事です。逆に言えば、再生可能エネルギーの方が割安になったならば、自然とそちらが普及するという事です。再生可能エネルギーのコストを下げるには技術研究の発展を待つしかありません。そうした活動をスムーズか進めていくためには、根拠のない「地球温暖化の原因=CO2説」に踊らされず、積極的に化石燃料を使用することが必要なのです。

まとめ

私が本書に手を伸ばしたきっかけは「原発の是非について自分なりの考えを持ちたい」と考えたことでした。

以前、国内で福島第一原発の事故で発生した「処理水」の処分で揉めに揉めていた時期がありました。「科学的に人体への影響がないと保証されているから海洋放出すべきだ」という意見と「「処理水」とはとんでもない、あれはただの汚染水だ」という意見の対立があったようです。しかし、明らかに正反対な主張同士にも関わらず、どちらの立場も一見、正しいように見えてしまうのです。

「考えがない状態では振り回されるばかりで、明確な行動ができない、そんな状態になるのは嫌なので、自分の意見を持ちたい」。その思いに突き動かされて本書を読みました。著者は「反原発」派のようです。「原発の維持管理、解体処分には多額のコストがかかる」というのは、今まであまり注目されてこなかったポイントだと思います。本当に原子力が「コスパの良い」エネルギーなのかどうか、考えてみる必要がありそうです。

世界各国の動きについても本書で触れられていました。ヨーロッパの国々については環境への関心が高さを感じました。また「原発推進」のフランスでもエネルギー源の分散、つまり原子力依存からの脱却を図ろうとしているのは驚きました。確かに一つの供給源に依存するのは、リスキーだと思います。今後しばらくは、石油、石炭、天然ガス、原子力、太陽光・熱、水力、風力、地熱、バイオマス、新エネルギー(シェールガス、メタンハイドレートなど)といった多様なエネルギー源への分散化が進むと思われます。とはいえ化石燃料や原子力といった環境負荷の高いものエネルギー源も当分の間は使われることになるでしょう。現時点で大部分を頼っているものから急激にシフトすることは不可能でしょう。発展途上国でも、安定して大量のエネルギーを得られる化石燃料や原子力の利用量が増加することが見込まれます。2050年の「化石燃料の使用全面禁止」が達成されるかどうかも分かりません。もし火力・原子力に頼らずにエネルギーを賄うならば、人間の経済活動を制限するしかないのではないでしょうか。しかしそれも不可能だと思われます。今から原始時代にタイムスリップしてスマホやエアコン、テレビといった、現代を生きる私たちが当然のように享受している技術の無い暮らしに戻れるでしょうか?だからこそ再生可能エネルギーの開発に手をかけるべきだ!という筆者の意見には大いに賛成です。

では私たちには何ができるのでしょう。一つ挙げられるのは、日常生活の中で省エネルギー・省資源を意識すること。レジでビニール袋を断る、無駄な買い物をしない、近場なら徒歩・自転車で移動、節水・節電、多少高くても長持ちするものを買う、直して使う、水筒を持ち歩く、食事を残さない…などなど。一人ひとりの貢献はちっぽけなものでしょう。しかし、だからと言って何もしなければ永遠に状況は好転しません。地球に暮らす何十億もの人々が変われば世界も変わります。「まずは実践」この言葉が胸に沁みます。

『ほんとうのエネルギー問題』

〈文=早稲田学 先進理工学部応用化学科 2年 千島 健伸(note)〉

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