書評

「チーズはどこへ消えた?」を読んで

「もうあの古いチーズが戻ってくることはないってことがやっとわかったんだ。

あれはもう過去のものだ。新しいチーズを見つけるべきなんだよ」(本文から引用)

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昔ある遠い国に、二匹のネズミと二人の小人が住んでいました。

ネズミのスニッフとスカリー、小人のヘムとホーは「迷路」の中に住み、「チーズ」を探します。

この物語はあくまで寓話に過ぎません。しかし、現実世界を生きる私たちにも通用する深い内容が含まれています。

つまり「チーズ」とは私たちが人生で求めるもの、仕事、家族、財産、健康、精神的な安定などの象徴。

「迷路」とは、チーズを追い求める場所、会社、地域社会、家庭などの象徴。

この二匹と二人から、私たちが学べることは何でしょうか?

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目次

1.「チーズ」はいつしか消えるもの

2.古い「チーズ」に見切りをつける勇気

3.新しい「チーズ」を探す

4.「チーズ」と一緒に前進し楽しむ

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1.「チーズ」はいつしか消えるもの

ある日、ネズミのスニッフとスカリー、小人のヘムとホーは好みのチーズを発見します。

それから彼らは毎日のように、そのチーズをたらふく食べて家に帰る、という日々を送っていました。

そんな幸せも束の間、チーズはなくなってしまいます。

ネズミのスニッフとスカリーはこの状況に対してシンプルなアクションを取りました。つまり古いチーズに見切りをつけ、新たなチーズを探し始めたのです。

一方、小人のヘムとホーは、何とかあのチーズを取り戻そうとして、「なぜチーズがなくなったのか?」と考えますが、いくら時間がたってもチーズは見つかりません。

焦りが募った二人は互いにいがみ合うようになり、徐々に精神が疲弊していきます。

「我々もネズミたちのように新しいチーズを探しに行こう」と勧めるホー、その変化を頑なに拒むヘム。

一方、新しいエリアに踏み込んだネズミたちは、袋小路に迷い込んだり、通路を行ったり来たりしながらも、遂に今まで見たことのない種類のチーズを大量に見つけます。

2.古い「チーズ」に見切りをつける勇気

ホーはついに、何も行動を起こさずに古いチーズにしがみついていた自分の愚かさに耐えきれなくなります。「なぜすぐに立ち上がり、チーズを探さなかったんだろう?」

相方のヘムは相変わらず、チーズがなくなった真相を明らかにしようとして、次の行動を移そうとしません。「私はあのチーズがいい、新しいチーズは私に合わない。」

ホーにとっても、今の暮らしを捨てて新しい領域へ踏み出すのは恐ろしい事でした。

道に迷うかもしれないし、チーズは見つからないかもしれない。ひょっとしたら新しいチーズなんて存在しないかもしれない。

恐怖は尽きませんが、「もしも恐怖が無かったら何をするのか?」考えてみました。

ホーは「うまくいかなくても、何もしないままでいるよりずっといい」と考え、まだ見ぬ領域へと踏み込んでいきます。

3.新しい「チーズ」を探す

いままでの生活を捨てて、チーズを探す過程は想像以上に楽しいものでした。

決して順調とは言えませんでしたが、新しいチーズを見つけて、それを味わっている自分の姿を想像するだけで胸が躍ったのです。

ホーはチーズ探しの中で、たくさんの教訓を得ることができました。

「新しいチーズがみつかっていなくても、そのチーズを楽しんでいる自分を想像すればそれが実現する」

「チーズがないままでいるより、迷路に出た方が安全だ」

「早い時期に小さな変化に気づけば、やがて訪れる大きな変化にうまく適応できる」

といった風に。

そして、自分の「変化」に対する考え方が間違っていたことに気づきます。

チーズがなくなり、恐怖と不安とにさいなまれていた時は「変化=悪いもの」と考えていました。

しかし、チーズ探しに出かけてからは、変化はものすごくいいものをもたらしてくれることに気が付いたのです。

何より自分の中に恐怖が一切ないことが嬉しく、今自分が「新しいチーズ」を探していることに喜びを感じられるようになりました。

4.

4.「チーズ」と一緒に前進し楽しむ

チーズ探しを続けていたホーは、かつて過ごしていた場所-ヘムと二人であのチーズを食べていた場所―からだいぶ離れたところにまで来ていました。

長い旅でしたが、その旅もいったん終わりを迎えることになります。

ついに、新たなチーズのありかを見つけたのです。そこには、見たことの無い種類のチーズがうずたかく積まれていました。

そしてそこには旧友のネズミたち、スニッフとスカリーもいました。でっぷりと肥え太っている様子を見ると、彼らはだいぶ前からこの場所にいたようです。

もちろんホーも新しいチーズに舌鼓を打ちます。

以前のホーと違ったのは、いつかチーズがなくなる事、そして新たなチーズを探さなくてはならないという事を理解していたということです。

いつチーズがなくなってもいいように、日ごろから新しい領域へ踏み込むようになったし、今あるチーズ量・味の変化に気を配ることも忘れませんでした。

なにより、変化に適応し前進することが楽しいと知っていました。もう過去のように変化を恐れる必要はありません。

遠くから誰かがやってくる音が聞こえました。ホーは祈りを捧げないではいられませんでした。「どうか相方がやってきたのでありますように…!」と。

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訳者あとがきによると、二匹のネズミと二人の小人の名前には次のような意味があるようです。

・スニッフ:「においをかぐ」

・スカリー:「素早く動く」

・ヘム:「閉じ込める」

・ホー:「笑う」

この物語を読んで、自分の生活と結び付けてみましょう。

自分にとっての「古いチーズ」、「迷路」、「自分が求めている新しいチーズ」は何でしょうか?

自分の振る舞いは二匹と二人のうち、誰に似ているのでしょうか?

スニッフのように、いち早く変化をかぎつけるかもしれないし、スカリーのように、素早く次の行動に移るかもしれません。

ヘムのように、自分の住み慣れたテリトリーに閉じこもっているかもしれないし、ホーのように恐怖と戦いながら、新たな領域へ進む喜びを感じ始めているかもしれません。

社会の急激な変化に対応するには、自分の行動を変えなくてはなりませんが、行動を変化させるためにはまず自分の考えを変化させる必要があります。

この本は、安定した現状にしがみつき、来たる変化を拒んでしまっている自分の考えを捨て去る助けになってくれるでしょう。

〈文=早稲田学 先進理工学部応用化学科 2年 千島 健伸(note)〉