書評

『天才たちの日課』を読んで

世界的ベストセラー作家、ノーベル賞受賞科学者、超絶技巧のピアニスト、天才作曲家、後世にも影響を及ぼす哲学者、世界をまたにかけて活躍する数学者…

歴史上に名を遺すようなクリエイティブな仕事をしてきた人々は一体どのような日常を送っていたのだろうか。

ということで今回は『天才たちの日課』を読んでみた。

本書のサブタイトルは「クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」。

天才だからと言って、一般人の度肝を抜くような生活を送っていたわけではない、という筆者のメッセージが込められている。

この本は、個人ブログ「Daily Routine」の内容を書籍化したものであり、筆者のメイソン・カリー氏はもともと「気楽な思いでやっていた」そう。しかし収集していった天才たちの日常のスクラップは蓄積していき、この書籍にはなんと161人の天才たちの日課が収録されている(そのため総ページ数はなんと358ページ!)。

そして、筆者が冒頭で断りを入れているように、この本は創造的な仕事をするために必要な生活習慣ないしはライフスタイルの答えを提供するものではない。

あくまで沢山のサンプルを提示しているのみである。そしてそのサンプルを一つ一つ読んでみると、人間の習慣というのは「天才」という人種に限ったとしても、千差万別、多種多様であることが分かる。

目次

  • 睡眠
  • 食事
  • 仕事時間
  • 天才たちに共通するものとは

睡眠

例えば、生産性・創造性に大きな影響をもたらしていそうな「睡眠」。

キリスト教の復興運動などで活躍した、牧師で神学者のジョナサン・エドワーズは早朝から起きて執筆活動などの仕事を始めていたそうで、彼の日記には「キリストが明け方に墓から起きられたのは、早起きを奨励するためではないだろうか」という記述が残されている(イエスは磔刑に処されて3日後の早朝に復活したと伝えられている)。

このように早朝という静かで脳内に雑多な考えが浮かばない時間帯に仕事をしていた天才もいれば、「我思う、ゆえに我あり。」でおなじみの哲学者ルネ・デカルトは起きるのが遅く、起きても11時頃まではベッドから出てこないのが習慣だったそう。しかし、そのベッドでの瞑想の時間が彼の類まれな業績の為には不可欠だった、と本人が語っている。

食事

「食事」についても、天才たち一人一人でその位置づけや気の配り方が違う。

日本人で唯一紹介されていた作家・村上春樹は健康にも充分配慮していたようで、午前中に執筆活動をした後は、午後にランニングや水泳などの運動、食事は野菜と魚中心。そして毎日同じ時間に寝て起きる、という生活を送っている。世界的に注目を集める作品は、バランスの良い食事と定期的な運動がその土台になっているようだ。

一方、フランスの小説家マルセル・プルーストは食事については栄養バランスもへったくれもない食生活を送っていたようで、長年彼の家で務めた家政婦はこのように語っている。「一日にカフェオレ2杯とクロワッサン2個で生きていける人間なんて聞いたこともない。」

また『死に至る病』などの著作をもつデンマークの哲学者セーレン・キルケゴールは大のコーヒー好きだったことが知られているが、ただのコーヒーマニアというわけではなかった。彼の場合は、空のコーヒーカップに山盛りの角砂糖を積み上げて、その上からすこぶる濃いホットコーヒーを注いで砂糖の山を溶かしたものを好んだという。想像しただけで口の中が甘くなる飲み方だが、キルケゴールの脳にとって必要なエネルギー補給だったようだ。

仕事時間

そして「仕事時間の長さ」も全く違う。勤勉さという点で、極端な例を挙げるならば、SF作家・科学批評家としても著名なアイザック・アシモフだろうか。彼は父親の経営する菓子屋を手伝っていた幼少期の経験を振り返ってこう書き残している。「私はあの菓子屋時代の労働習慣を守ってきた。朝は5時に起きて、なるべく早く仕事をはじめ、なるべく長く働く。(中略)そして長く働くことが私にとって快感になり、生涯の堅い習慣になったのだ。」

逆に点描による巨大なポートレート作品の巨匠、アメリカの画家チャック・クロースは「理想の世界では一日6時間、朝3時間、昼3時間働くね。」と語っている。確かに、集中が続かないのに無理を押して長い時間仕事をするより、短い時間に爆発的に作業する方がいい気もする。特にクリエイティブさが求められる職業ならなおさらだ。

天才たちに共通するものとは

とにかく、161人いたら161通りの日常がある訳で、そこに共通する方法論であったり、「この習慣が創造性を発揮するのに最適!」といったようなノウハウを抽出することはできないと思われる。

ただ、一つ言えるのは、天才と呼ばれる人々は生活をルーティン化することで、クリエイティブな仕事の邪魔になってしまう思考を極力カットしていたのではなかろうか?という事だ。

一般人が日常生活の部分に割いている脳のメモリを、天才たちはより創造的な思考に充てていたとも言い換えられる。

本書では、作家ジェイン・オースティンの次のような言葉が記載されている。「マトンの骨付き肉やスパイスの加減のことで頭がいっぱいのときに小説を書くなんて、私には無理だと思う」。

ここまで書いていて、私はある言葉を思い出した。伝説的ロックバンドTHE BLUE HEARTSなどを率いたバンドマン・甲本ヒロトの言葉だ。

“生活は楽な方が絶対いいと思うよ でも人生は楽しい方がいいじゃん

生活は楽に 余計なことには気をとられず 人生は楽しく“

この一言に、多くの「天才たち」が知ってか知らずか実践してきた、創造性を引き出すカラクリが隠れているように思える。

参考文献

・メイソン・カリー著,「天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」, フィルムアート社(2014)

・「BREaTH vol.12 SPRING 2000」,ソニーマガジンズ(2000)

〈文=早稲田大学 先進理工学部応用化学科 3年 千島 健伸(note)〉

当ライターの前の記事はこちら:なぜ自然環境を守らないといけないのか? ~「生態系サービス」という考え方~

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