私たちがふだん何気なく使っている温度目盛「℃」。
「セルシウス温度」と呼ばれる、この温度目盛は「水が氷になる温度を0度、水が水蒸気になる温度を100度」という定義の下で設定された温度目盛です。
体温や気温、風呂の温度など身の回りの温度は「℃」で表示されているものがほとんどなのではないでしょうか?
しかし、人類が考案してきた温度目盛はこれだけではありません。人類は文化的な背景や話題の違いに応じて様々な温度目盛を使い分けてきました。
目次
- 日常で使う温度目盛
- 科学の世界で使う温度目盛
- ちょっと変わった温度目盛
- まとめ
日常生活で使う温度目盛
さきほど日常生活において最も広く用いられている温度目盛として「セルシウス温度」を紹介しました。
セルシウス温度が広く使われている理由の一つは、日常スケールの温度が十の位で収まることでしょう。例えば人間の平熱をセルシウス温度で表現すれば、35~37度となりますし、地球上で観測された最低・最高気温は-90~60℃の範囲に収まっています。
逆に体温や気温が天文学的な桁数で表示されていたり、小数点以下にゼロが何個も続くような温度目盛だと非常に不便になってしまいます。
これ以外にも、日常生活でよく使われる温度目盛が存在しています。それが「ファーレンハイト温度」(*1)と呼ばれるものです。
これは考案者のガブリエル・ファーレンハイトが、自分の体温を100度、塩水と氷を使って到達できた最低温度を0度として設定したといわれています(諸説あり)。
ファーレンハイト温度を用いるメリットは、日常生活で現れる温度のほとんどをゼロ以上の値で表示できる点だと言われています。
ファーレンハイト温度の「ゼロ度」は「℃」で表示すると-18℃程度です。2019年1月の札幌で観測された最低気温が-11.3℃であることを考えると、ファーレンハイト温度ではゼロ度以下になることが少ないことがお分かりいただけると思います。
(2019年1月札幌の気温→https://weather.goo.ne.jp/past/412/20190100/)
ただファーレンハイト温度が使われているのは、一部の英語圏に限られており、やはりセルシウス温度が日常生活で最もなじみ深い温度目盛と言えるでしょう。
(*1:セルシウス温度が「摂氏温度」と呼ばれるのに対して、ファーレンハイト温度は「華氏温度」と呼ばれることもある。)
科学の世界で使う温度目盛
気体の性質についての研究が進むうちに、セルシウス温度よりも自然な温度目盛が提案されるようになります。それが「絶対温度」です。絶対温度の単位にはケルビン(K)が使われます。
セルシウス温度との違いを見てみましょう。
先ほど説明した通り、セルシウス温度は「水が氷になる温度」が0度でしたが、絶対温度目盛りでは「セルシウス温度で-273.15度に相当する温度」が0度になります。つまり、セルシウス温度を絶対温度に変換するには、273.15を足せばいいということです。
例えばセルシウス温度の「0℃」「100℃」を絶対温度に換算すると、それぞれ「273.15 K」「373.15 K」になります。
科学の世界では絶対温度が広く使われます。これは絶対温度を使った方が数式を簡単に書けることが多いからです(例:理想気体の状態方程式)。
ちなみに、絶対温度の0度は絶対零度と呼ばれており、決して実現することはできないといわれています。しかし完全にゼロにすることは不可能だとしても、限りなくそれに近い状態(極低温)を目指す試みは続けられています。
ちょっと変わった温度目盛
このように、絶対温度という科学の世界では便利な温度目盛が考案されて広く使われるようになりました。
しかし、絶対温度以外にも科学の世界で使われる温度目盛が存在します。それが「逆温度」と呼ばれるものです。
この温度目盛は、統計力学(*3)という分野で顔を出します。「逆温度」はギリシャ文字の「β」で表現されています。絶対温度をTとするとβは次のように表せます。
kはボルツマン定数という物理定数です。導出過程は省略しますが、このように「β」がTに反比例するという関係式を得ることができます。
この温度目盛がちょっと変わっているのは、Tが大きくなるほどβは小さくなる点です。
つまりβを使うときには、私たちが慣れ親しんだ「熱いほど温度が高い、冷たいほど温度が低い」という感覚とは真逆になることに注意が必要です。
(*3:原子や分子集団の力学的な振る舞いを統計的に解析して、全体の性質を説明する分野)
まとめ
- 温度目盛は「℃」だけじゃない
- 人類は必要に応じて適切な温度目盛りを使い分けてきた
- これから先も新しい温度目盛が登場するかもしれない
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いかがだったでしょうか?
普段何気なく使っている温度目盛「℃」ですが、よく考えてみると、それは人間にとって都合がいいように作られた物差しの一つに過ぎません。
これと同じく、私たちが当たり前に感じている考えや常識という“物差し”は、実は「誰かが勝手に作り上げたもの」かもしれません。時と場合によっては、新しい“物差し”を受け入れ、それで物事を測る必要があるのかもしれません。
先人たちが試行錯誤してきた歴史から、今の自分を縛りつけている思い込みから抜け出すためのヒントを探してみてはいかがでしょうか?
【参考文献】
ピーター・アトキンス著, 斎藤隆央訳, 万物を駆動する四つの法則 科学の基本, 熱力学を究める, 早川書房(2009).
〈文=早稲田大学 先進理工学部応用化学科 3年 千島 健伸(note)〉
当ライターの前の記事はこちら:「ファインマンさん ベストエッセイ」を読んで
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