社会保険

遺族年金が5年で終了?法改正の正しい理解と注意点

2025年の年金制度改正案には多くの重要な見直しが盛り込まれています。その中でも特に大きな注目を集め、SNS上で炎上しているのが「遺族厚生年金の5年有期給付化」です。「改悪」との声があがっていますが、本当にそうなのでしょうか?

今回は、「遺族年金の改正」について、ポイントを整理しながらわかりやすく解説します。

目次

  1. 遺族年金とは?2つの制度の違い
  2. 改正案のポイント:男女差解消と支給期間の見直し
  3. よくある間違い
  4. 見直しの背景
  5. まとめ

1. 遺族年金とは?2つ制度の違い

遺族年金には以下の2種類があります。

  • 遺族基礎年金:被保険者等が死亡したときに、その遺族に支給される。遺族の範囲は、18歳年度末までの子どもがいる配偶者又は子である。子どもの養育費としての意味合いがある。
  • 遺族厚生年金:厚生年金に加入していた会社員などが亡くなった際に、遺族に支給される。遺族の範囲は遺族基礎年金よりも広く、世帯単位の保障を目的としている。

※「遺族としての子ども」は、「18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、20歳未満であって障害の状態にあり、かつ婚姻をしていないこと」が要件とされる。本稿では「18歳年度末までの子ども」と表記します。


現行の遺族厚生年金制度

現行の遺族厚生年金では、性別や受給者の年齢で支給期間が変わります。

  • 女性
    • 30歳未満で死別:5年間の有期給付
    • 30歳以上で死別:無期給付
  • 男性
    • 55歳以上で死別:60歳から無期給付
    • 55歳未満:受給資格なし

(いずれも子どもがいない場合)

夫が遺族となる場合は、55歳未満では受給できず、受給資格があっても支給は原則60歳からです。

2. 改正案のポイント:男女差解消と支給期間の見直し

政府は、女性の就業率の上昇や男女平等の観点から、次のような見直しを行う方針を示しました。

■ 改正のポイント

① 男女差の解消

これまでは、55歳未満の男性には受給資格がありませんでした。20代~50代の男性も新たに5年間の有期給付の対象になります。

② 有期給付化の対象は「子どもがいない現役世代」

18歳未満の子どもがいない場合、男女問わず、60歳未満での死別時には5年の有期給付です。

③ 子どもがいる場合は影響なし

18歳年度末までの子どもがいる場合は見直しの影響はありません。


その他の改正点

改正案には、他にも以下のような前向きな内容が盛り込まれています。

  • 収入要件の廃止:収入が一定額を超えると受給できなかった制限を見直し。
  • 子の加算額の増額:遺族基礎年金の子の加算額の増額し、遺族厚生年金にも、子に係る加算額を新設予定。
  • 障害者や低所得者への経過措置:5年の有期給付終了後も、継続して受給できる。

3.間違いやすいポイント

「すべての遺族年金が5年で打ち切られる」は誤解です。

SNS上では、「遺族年金が5年に有期給付化」の見出しだけで判断し、「すべての遺族年金が5年で打ち切られる」と誤解されている方を見かけます。
60歳以上での死別や18歳年度末までの子どもがいる場合は、引き続き無期で支給されます。さらに、改正前から遺族厚生年金を受け取っていた方も対象外です。

今回の遺族厚生年金の見直しの対象は、施行予定の令和10年4月時点において18歳年度末までの子どものいない40歳未満の女性と60歳未満の男性です。 したがって、以下の方は現行制度のままであり、見直しの影響はありません。

・ 施行日時点で既に遺族厚生年金を受給している方

・ 60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する方

・ 18歳年度末までの子がいる方

・ 2028年度に40歳以上になる女性

また、5年間の有期給付終了後も、障害年金受給権者や収入が十分でない方は、引き続き、遺族厚生年金を継続して受給することができます。収入が増加するにつれて収入と年金の合計額が増加するように年金額が調整されます。 この場合の遺族厚生年金は、有期給付加算によって年金額は現行の約1.3倍になります。

4.見直しの背景

女性の就業増加や共働き世帯の増加を背景に、遺族厚生年金の支給要件が見直されることとなりました。

今回の改正で対象となるのは、20代〜50代で死別した、子どもがいない配偶者です。

遺族厚生年金は、生計を維持していた配偶者を亡くし、家計の収入が著しく減少すると見込まれる遺族(一家の大黒柱を失い、生活困窮に陥るリスク)に対して、生活保障を目的に支給される制度です。現行制度では、30歳以上の妻については長期的な生計維持が困難と想定され、無期での支給となっています。

一方で、夫に対しては「自ら働いて生計を立てる能力がある」という考え方のもと、原則として55歳以上(支給開始は60歳以上)で受給権発生という仕組みになっており、性別による大きな格差が存在していました。

こうした背景から、男女差を解消することを目的に、制度の見直しが行われることとなりました。

5.まとめ

今回の改正案は、「遺族厚生年金の有期給付化」という面が注目されていますが、実は男女間の不公平の是正や、子育て家庭への支援強化といった、これまでの問題を解消するための改革です。

「5年で打ち切り」という一面だけが強調され、SNSで誤解が広まっています。年金制度の仕組みは難しいですが、それを理解しようとしない姿勢は好ましくありません。正確な情報を得るためには、SNSで流れてくる情報に惑わされず、一次情報に基づいて理解することが大切です。

参考

厚生労働省 遺族厚生年金の見直しについてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00020.html

厚生労働省 遺族厚生年金の見直しに対して寄せられている指摘への考え方https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001499009.pdf

<文=森 寛衆>

当ライターの前の記事はこちら:「基礎年金の底上げ」は厚生年金の“流用”なのか?制度の仕組みから読み解く

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