今回は、会社倒産と社会保険料滞納の関係について解説します。
会社が倒産したとき、社会保険料が滞納されていたらどうなるのでしょうか。
「会社が滞納したら、年金や健康保険に影響するのでは?」と不安に思うかもしれません。
実際には、会社が倒産しても従業員の保障は守られる仕組みがあります。ただし、倒産の形態によって滞納保険料の処理方法は異なり、従業員に影響を与えるケースもあります。
本記事では、
- 倒産時の滞納保険料の扱い
- 滞納処分と「不納欠損」
- 従業員に及ぶ影響
についてわかりやすく解説します。
目次
- 倒産時の滞納保険料、どう処理される?
- 滞納処分の執行停止と不納欠損
- 従業員への影響
- まとめ
1. 倒産時の滞納保険料、どう処理される?
会社が社会保険料を滞納した状態で倒産した場合、破産かどうかによって、処理の流れが変わります。
会社の債務整理については、いくつかの方法があり、大きく分けると法的整理と私的整理に分類されます。
法的整理にも、破産だけでなく、民事再生等の方法があります。ここではわかりやすくするため、破産手続きと事実上の倒産状態に分類することにします。破産のうち、同時廃止(破産手続き開始と同時に廃止する)の場合もありますが、実務上ほとんど起きないため本記事では割愛します。
① 破産手続きの場合
- 裁判所が破産手続開始を決定すると、破産管財人が会社の財産を整理
- 滞納者に残った財産があれば、配当・充当される
- 財産が整理されると、事業主の納付義務が法的に消滅
破産手続きが開始決定された場合、滞納保険料の処理は機械的に行われます。破産管財人が法人財産を整理し、残余があれば滞納保険料に充当されます。充当してもなお滞納が解消されなければ、事業主の法的な納付義務は消滅することとなります(破産事件終結後)。
② 法的整理をしない「事実上の倒産」の場合
- 事業の継続が困難となっても、法的整理がされない場合
- この場合、「適用事業所廃止届」や「被保険者資格喪失届」が提出されていれば、社会保険の資格関係は終了
- 実際には手続きがされないケースも多く、その場合は実施機関が職権で資格喪失を処理(処分に対して事業主が不服申立を行うこともある)
破産の手続きをするには弁護士費用が必要で、資金繰りに困窮している事業所は払えないケースが多々あります。このような法的整理しない場合、事業所廃止や従業員の資格喪失の手続きがされずそのまま放置されます。つまり、事業実態がないにもかかわらず、健康保険・厚生年金の資格が継続していることになります。事業主から自主的な手続きがされなければ、実施機関が職権で喪失と廃止の処理をすることになります。
2.滞納処分の執行停止と欠損処理
社会保険料が滞納された場合、実施機関が財産調査を行い、滞納処分(差押えなど)を実施します。ただし、滞納者が行方不明であったり、財産がないと判断された場合には、「滞納処分の執行停止」の処理がされることがあります。
■ 滞納処分の執行停止とは?
- 滞納者の所在が不明、または財産がないと確認された場合に適用
- 根拠法令は国税徴収法第153条
- 執行停止から2年経過後に「不納欠損」として処理され、納付義務が消滅
■ 不納欠損とは?
- 滞納保険料を、徴収の見通しが立たないなどの理由で未納の扱いから除くこと
- 破産事件の場合は、滞納処分の執行停止と同時に「即時欠損」として処理される
3.従業員への影響
勤めていた会社が倒産し、社会保険料を滞納していたことが発覚したとします。毎月の給与から保険料が天引きされていたにもかかわらず、会社が滞納していた場合はどうなるのでしょうか。
この場合、従業員の保障には影響ありません。
社会保険料の納付義務があるのは会社であることから、会社納めていなかったからといって従業員の年金の受給額が減らされるようなことはありません。健康保険においても同様に、健康保険料を滞納したからといって、原則3割負担の保険診療が受けられなくなるわけではありません。ですが、会社が倒産して実態として雇用関係がない場合は、被用者の健康保険の資格があるのは不合理です。もし、自身の年金記録が不安なときは、ねんきんネットや年金事務所に確認した方が良いでしょう。加入期間や保険料の納付状況などの年金記録が事実と異なるときは、年金記録の訂正を国に請求することができます。
4.まとめ
会社が倒産して社会保険料が滞納されていたとしても、従業員の年金や保障に直接的な影響はありません。保険料を納める義務は事業主にあるため、給与から天引きされていた分については、従業員側に不利益は生じない仕組みになっています。
ただし、会社が手続きをせずに放置している場合、資格が宙に浮いた状態になり、転職先での社会保険加入や将来の給付に影響が出ることがあります。そのため、ご自身の年金記録はねんきんネットで加入状況を定期的に確認することが大切です。
<文=森 寛衆>
当ライターの前の記事はこちら:「頑張れ」という言葉の違和感
株式会社シグマライズでは、就活生向けに「就職支援コミュニティ【α】」というLINEのオープンチャットにて就活生の支援を行っています。過去のコミュニティ利用者にサポーターとしてコミュニティに残ってもらっていますので先輩に相談することも可能です。
サービスの詳細について知りたい方は、こちらのサービス紹介ページから詳細確認下さい。