社会保険

厚生年金の標準報酬月額の上限引き上げについて(令和9年9月1日~)

目次

  1. 標準報酬月額の上限引き上げについて
  2. 標準報酬月額とは?
  3. 標準報酬月額の等級の決め方
  4. まとめ

この記事のポイント

  • 年金制度改正により、令和9年9月から厚生年金の標準報酬月額の上限が段階的に引き上げされる
  • 厚生年金の標準報酬月額の上限は、収入の多寡で給付の差が大きくならないようにするという観点で設定され、平均の2倍を上回っているかどうかを基準にしている
  • 上限引き上げは給付水準の上昇につながる

1. 標準報酬月額の上限引き上げについて

現行の厚生年金保険法では、標準報酬月額は全部で32等級、上限は65万円に設定されています。65万円を大きく上回る報酬を得ている場合でも、保険料は65万円に基づいて計算されます。これにより、高所得者は実際の収入に比べて保険料負担が相対的に軽くなり、年金給付も収入の水準に応じた額とならないという課題がありました。

そこで、厚生年金の標準報酬月額の上限額が令和9年9月以降、段階的に以下の通り引上げられることになりました。

  • 令和9年9月から 68万円
  • 令和10年9月から 71万円
  • 令和11年9月から 75万円

たとえば、月額報酬が75万円の被保険者の場合、今回の引上げにより令和11年9月以降は、ひと月あたりの保険料(本人負担分)は約9,100円増加する見込みです。年金加入期間が10年と仮定すると、将来受給する年金額は月5,100円程度増加するとの試算が示されています。

2. 標準報酬月額とは

厚生年金保険料の計算は、被保険者の報酬に保険料率18.3%を掛けて行われますが、その計算の基礎となるのが標準報酬月額です。実際の報酬額で計算されるのではなく、32等級のうち、該当する等級に報酬を当てはめて保険料を計算します。標準報酬月額の算出は、月ごとではなく、原則として毎年4月~6月の3か月間に支払われた報酬の平均に基づいて決定されます。これを定時決定といいます。

3. 標準報酬月額の等級の決め方

制度が発足した当初は、上限の改定に明確な基準は設けていませんでした。しかし、1985年改正で男子被保険者の平均標準報酬月額の概ね2倍、その後女子も含めて概ね2倍になるように設定することなりました。さらに、上限の考え方を法律に適用し、政令で上限を追加することを可能としました。現在は、全被保険者の平均標準報酬月額の2倍に相当する額が標準報酬月額の上限を上回るかどうかを基準にしています。そしてその状態が継続すると認められる場合には、上限の上に等級を追加することができる仕組みになっています。

2023 年度末における全被保険者の標準報酬月額の平均は 32.6 万円で、2 倍相当額がすでに 65 万円を上回って いることから、今回の改正に至ったということです。

健康保険では、標準報酬月額の上限の範囲にいる被保険者数の割合が 1.5%を超える状態が継続する場合に、さらに上の等級を加えることができる仕組みとなっています(ただし、改定後の上限に属する被保険者数の割合は 0.5%を下回ってはならない)。参考までに、第1号厚生年金被保険者では、最高等級(65万円)に該当する者の割合は、約6.5%となっています。

また、健康保険法における標準報酬月額は、 50等級あり、下限は 5.8 万円、上限が 139 万円とより範囲が広くなっています。これは、厚生年金は標準報酬額が年金額に反映されるのに対し、健康保険は給付水準にあまり影響を受けないことが理由です。

4.まとめ

年金制度改正により、厚生年金の標準報酬月額の上限は、令和9年9月以降、65万円から段階的に引き上げられ、最終的には令和11年9月に75万円となります。

厚生年金の標準報酬月額上限は、収入の多寡で給付額の差があまり大きくならないようにするという観点で設定され、厚生年金の標準報酬月額の上限は平均の 2 倍を上回っているかどうかを基準にしています。

また、健康保険では標準報酬月額の上限は139万円と厚生年金よりも高く設定されています。これは、健康保険の給付が収入の水準によって給付額が大きく変わるわけではないためです。一方、厚生年金は将来の年金額に直結するため、上限の設定がより慎重になっています。標準報酬月額の上限は、賃金の状況に見直されるため、今後も変更される可能性があります。そのため、今後の発表に注目しましょう。

(参考)

厚生労働省.”標準報酬月額の上限について” 第21回社会保障審議会年金部会 2024年11月25日

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001337885.pdf

<文=森 寛衆>

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