目次
- ご褒美と勉強
- 目先の利益を追求する心理
- 「テストで高得点だったらご褒美」か「本を読んだらご褒美」どちらが良いか?
- 勉強の仕方が大事
- ご褒美の適切な設定方法
1.ご褒美と勉強
子どもに勉強させるときに、ご褒美で釣ってよいのか?という問いに読者の皆様はどのように答えるだろうか?恐らく、個人によって回答は異なるだろう。しかし、教育経済学の観点からは、蓄積されたデータを基に、汎用性のある回答をすることができる。本稿では、中室牧子先生の『「学力」の経済学』を参照して、ご褒美と勉強の関係について具体例を上げながら説明する。
2.目先の利益を追求する心理
教育経済学的には、1年間追加で勉強を受けることによって、子どもの将来の収入が高くなることが示されている。しかし、目の前にご褒美がなければ勉強しない子もいる。それは、「双曲割引」が働くからだ。双曲割引とは、人間は、目先の利益が大きく見えてしまう性質のことである。具体的には、人間は目の前にある利益や満足を優先しがちな「個人の好み」を持っており、遠い将来のことなら冷静に考えることができても、近い将来のことは、すぐに得られる満足を大切にしてしまう。近い将来の満足を優先する状態は、子どもが勉強する時にも生じていて、遠い将来のことを考えれば、しっかりと勉強した方が良いのに、つい勉強をせず、楽をするという近い将来の満足を大切にしてしまい、「勉強するのは明日で!」といった状態に陥ってしまう。逆に言えば、目の前に利益を与えることは、子どもを勉強するように仕向け、勉強することを先送りにさせないという効果を持っている。
3.「テストで高得点だったらご褒美」か「本を読んだらご褒美」どちらが良いか?
ある研究では、教育のインプットにご褒美をあげる方が学力テストの結果が良いという結果が出ている。ハーバード大学のフライヤー教授は、ご褒美の因果関係を明らかにする実験を行っている。フライヤー教授の研究を理解するには、教育生産関数について理解することが便利である。教育生産関数(インプット・アウトプットアプローチ)とは授業時間や宿題、親の所得や学歴などの教育上のインプットが、学力などのアウトプットにどのくらい影響しているかを明らかにしようとするもののことである。フライヤー教授は、ニューヨーク、シカゴで学力テストや成績の「アウトプット」が良ければご褒美を上げるグループとダラス、ワシントンDC、ヒューストンで本を読む、宿題を終えるなどの「インプット」にご褒美を上げるグループに分け調査を行った。結果は、インプットにご褒美を与えられた子どもの方が学力テストの結果が良くなった。[i]
[i] Allan , B. M., & Fryer, R.G.(2011). The power and pitfalls of education incentives. Brooking Institution, Hamilton Project.
4. 勉強の仕方が大事
本を読んだらご褒美のグループの学力結果が良かった背景には、やるべきことが明確であったということだ。フライヤー教授が行ったアンケート調査では、アウトプットにご褒美を与えることが上手くいかなかった理由は、問題文を読む、解答を見直すなどのテストを受ける際のテクニックについての回答に終始していて、分からないところを先生に聞く、授業をしっかり聞くなどの、本質的な学力の改善に結びつく方法にまで考えが及んでいなかったことが分かった。
5. ご褒美の適切な設定方法
加えて、ご褒美には適切な設定方法がある。経済学では、「外的インセンティブ」、「内的インセンティブ」が存在する。具体的に説明すると、外的インセンティブは、お金などの外から得られるインセンティブのことで、子どもを勉強に向かわせることが可能となる。それに対し、自分のために一生懸命勉強するなどのインセンティブは、「内的インセンティブ」と呼ばれる。これらのインセンティブは相互に作用し、外的インセンティブを用いることによって、内的インセンティブを締め出すことが懸念されている。例えば、献血をする人が献血する人にお金を払うようにした結果、献血する人が減ってしまう[i]など、内的インセンティブを阻害してしまうといった研究結果も確認されている。ご褒美は、外的インセンティブが内的インセンティブを阻害しないようにする必要がある。他にも、小学生に対しては、400円のお金よりも、同額のトロフィーが大きな効果があることが研究で分かっている。その一方、中高生以上にはトロフィーよりもお金が効果的だったことも分かっている。[ii]フライヤー教授が行ったアンケートによると、ご褒美にお金を得た子どもたちは、お金をしっかりと管理し、堅実なお金の使い方をしていたことが明らかになっている。まとめると、ご褒美の設計を適切に行えば、一生懸命勉強するのが楽しいという気持ちを失わせることなく、学力を向上させることが可能となる。
[i] Oakley, A., & Ashton, J. (1997). The gift relationship: from human blood to social policy. London School of Economics and Political Science.
[ii] Gneezy, U., &Rustichini, A. (2000). Pay enough or don’t pay at all. The Quarterly Journal of Economics, 115(3), 791-810.
主要参考文献
中室牧子 (2015) 『学力の経済学』ディスカヴァー・トゥエンティワン.
<文=末田椋資>
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