社会保険

年金を「損得」で考えることが間違いである理由

令和4年から年金に携わる仕事をしている中で、様々な意見を聞いてきました。その中でも多かったのが、「払った保険料よりも給付額の方が少なくなり損をする」「損する制度はいらない、廃止してほしい」という意見です。これは日本の公的年金制度を語るうえで避けて通れない重要な論点です。 本記事では、「なぜ年金を損得で考えることが適切でないのか」について、保険の仕組みから紐解いていきます。

目次

  1. 払った分をもらえなければ損?
  2. 保険の仕組み
  3. 年金制度の仕組み
  4. まとめ

1. 払った分をもらえなければ損?

近年の年金制度改正により、年金に注目が集まる一方、SNS上では度々炎上しています。その背景には、制度に対する国民の理解が不十分であること、制度が複雑であることが挙げられます。ニュースや記事で過剰に不安を煽ることも原因の一つです。そんな中、若い世代を中心に広まっているのが、「現役世代が納付する保険料に対して、見合う給付が受けられない」「保険料の払い損だ」という考え方です。年金を損得で判断する考え方には、制度に対する本質的な視点が欠けており、論理として成立しません。それでは、なぜ年金を損得で考えることが適切ではないのか、保険の仕組みから考えてみることにします。

2. 保険の仕組み

保険とは、将来起こるかもしれないリスクに備えて保険料を支払い、いざというときに保障を受けられる仕組みです。

たとえば自動車保険では、事故が起きた際に保険金が支払われます。しかし、事故が起きなければ保険金は出ません。それでも、多くの人が「万が一の備え」として保険に加入します。加入者は事故に備えて保険料を支払っていますが、事故を起こさなかったからといって「払い損だ」と考えるでしょうか?

同じように、医療保険も「病気やケガをしたときに大きな出費を防ぐための仕組み」です。病気やケガをせずに医療機関を受診しなかったとしても、それは「損をした」ということにはなりません。

このように、保険とは「リスクへの備え」であって、支払った保険料と給付額を比べて損得を判断するものではありません。

3.年金制度の仕組み

年金を保険の仕組みに当てはめて考えてみます。

  • 老齢年金 「歳をとって、収入が少なくなり、生活困窮になるリスク」
  • 障害年金 「障害を負い、就労が困難となり、収入が少なくなるリスク」
  • 遺族年金 「稼得能力のある家族を亡くし、遺族の生活が苦しくなるリスク」

このように、年金は生活上のリスクに備えるための仕組みであり、「何かあったとき」に給付を通じて支える制度です。平均寿命より早く亡くなれば、個人単位で考えれば「損」です。しかし、年金制度は個人の損得で設計されているものではありません。 たとえ受給前に亡くなったとしても、遺族が年金を受け取れる場合もあり、納めた保険料が「無駄になる」わけではありません。

このように、年金制度も、他の社会保障制度と同様「リスクへ備える制度」であって、個人の損得で判断するものではないことがわかります。制度を語るうえで、個人の損得をベースに議論するのは避けるべきです。

もちろん、「年金を損か得かで考えること」自体が悪いわけではありません。老後の生活設計を立てる上で、自分が将来いくら受け取れるのか、納付額と照らし合わせてシミュレーションすることは大切なことです。

4. まとめ

社会保障制度は、個人の損得ではなく、社会的に必要とされているという視点をもつことが重要です。言い換えれば、公的制度とは、社会の必要を満たすために存在するものであり、決して個人の利益を増やすためのものではありません。 損得論を用いるのであれば、その損得は個人ではなく社会を基準に考えるべきです。「なぜこの仕組みがあるのか」「何の課題を解決しようとしているのか」といった背景や本質に目を向けることが大切です。

<文=森 寛衆>

当ライターの前の記事はこちら:将来の年金を増やす方法は?上乗せ給付の仕組みをわかりやすく解説

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