目次
- なぜ、市役所前に銅像が?
- 裸体像の歴史
- 日本初の裸体像、設置の裏に
- 賛否両論
- 彫刻は政治的な意味を持つことも
- 作品に思いを馳せて
なぜ、市役所前に銅像が?
市役所に用事がありの中に入ると、そこには裸の女性のブロンズ像が建っていた。自治体のポスターにアニメのキャラクターが起用されると、その容姿を巡って論争がしばしば繰り広げられることもあるこの世の中で、公共施設のあちこちに市民を見守るかのように立っている裸のブロンズ像。そこで私は、あのブロンズ像は誰が何のために設置したのか気になり、深堀りしてみることにした。
裸体像の歴史
日本の公共空間で初めて誕生した裸体像は、東京都千代田区にある三宅坂小公園に「平和の群像」である。これが、日本最初の公共空間に誕生した3人の女性の裸体像だ。この像を作った菊池一雄は、ギリシャ神話の3美神を参照し、「意欲」、「理知」、「愛情」を3人の女性の体をもって表現したと述べている。実は、「平和の群像」が建てられる前は、「寺内元帥騎馬像」が建てられていた。寺内元帥とは、第18代内閣総理大臣の寺内正毅のことで、日本史で習ったことのある読者も多いのではないか。彼は、頭の形がビリケン人形に似ていたことと、コテコテの軍人であり「非立憲」であったことから、ビリケンと揶揄された人物である。しかし、立派な像は、戦時の物資不足から金属回収が始まると、寺内正毅の騎馬像は、戦争のため回収された。平和の群像はその残された台座の跡に作られたものである。軍人像から女性像へ。この彫刻の交代に毎日新聞は、
「裸婦像が街頭に建てられる。パリの話ではない東京、それも国会議事堂前の寺内元帥銅像跡、まさに軍国日本から文化日本への脱皮を象徴する女神の像である。」(毎日新聞 1950年6月14日)
と報道している。
日本初の裸体像、設置の裏に
「平和の群像」作者の菊池は、共作した吉田秀雄に、「我が国最初の裸婦の街頭進出なので、アイデアを練るのに相当勇気が必要だった、従来の銅像タイプを破って芸術性の高いものを意図したが、これを機会に彫刻家がこの方面に大胆な意欲を発表して欲しい」と述べたという。ただ、前例のないヌード彫刻の街頭進出だったため、建設時には区長や区議長に裸体彫刻が猥褻ではないことを説かなければならなかったという。
賛否両論
菊池らのあと、後続の彫刻家が次々に裸体像を創作した結果、日本のあちこちに裸体像が見られるようになった。しかし、なぜ裸の彫刻を税金で賄わなければならないのかという批判も起きるようになった。近年フェミニズムの観点から再考を促す声も上がっている。
海外ではこんな論争も上がっている。2018年、イギリスのマンチェスター市立美術館が思春期の若い女性の裸の姿が描かれているJ.W.ウォーターハウスによる油彩画「ヒュラスとニンフたち」を1週間撤去し、絵画が一時撤去された場所に一時撤去に関する意見を付箋に書いて、作品が展示されていた壁に貼り付けるよう提案した。多くの来場者が絵画撤去に関する自分なりの意見を付箋に貼っていた。美術館の臨時館長のアマンダ・ワラス氏は、BBCのインタビューに、「多くの人が強い意見を持っていた。この強い思いを取り入れて、こうした幅広い問題についてさらに議論を進めていくつもりだ。」と語っている。(現在は再展示されている。)
彫刻は政治的な意味を持つことも
そもそも、彫刻とは、作成者が何か政治的なメッセージを伝えたくて作成することもある。例えば、韓国に多数設置されている慰安婦像は、慰安婦問題の抗議のために韓国の団体が、日本大使館前に設置したのを皮切りに、韓国内と、中国内に多数設置されている。韓国の首都、ソウルでは、2017年から、慰安婦像を乗せた路線バスも運行している。アメリカでは、7月、人種差別を想起させる歴史的人物の像を倒す動きが広がっていて、19世紀の黒人活動家である、フレデリック・ダグラスの像が引き倒された。これは、米ミネソタ州でアフリカ系米国人ジョージ・フロイドさんが警察に拘束され、死亡した事件を受け、奴隷制度に関与した人物の像が各地で破壊された報復として、ダグラスの像が壊されたと活動家たちは見ている。
裸体像が、平和の象徴と謳われる反面、奴隷制度の象徴として引き倒される銅像もある。彫刻は闘争を生む事もある。
作品に、思いを馳せて
話を裸体像に戻そう。結論、裸体像が市役所などの公共の施設に置いてある理由は、平和の象徴とであるなど、色々な意見があるが、詳しいことは分かっていない。
それならば、自分で考えてみるというのはどうであろうか。この彫刻を作った人はこんな人で、社会に対してこんな問題意識を抱えていて、過去の作品ではこんな作品を作っているのか。作られた時期はベトナム戦争で何かこの戦争とこの彫刻は関連があるのかなといった感じに、作品の背景を考えることで、その作品を吟味し、楽しむことができる。皆さんも、公共の施設で銅像を見かけたら、ぜひ作者が作品を通じて何を伝えたかったか、考えてみませんか?
<文=末田椋資>
当ライターの前の記事はこちら:方向音痴を直そう!
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