社会

東アジアの奇跡を生んだ要因は?

目次

  1. 成長著しい東アジア
  2. 成長の要因は「生産要素の投入の増加」と「生産性の改善」にある
  3. 東アジアの奇跡を生んだ要因は?
  4. 中進国の罠

1.成長著しい東アジア

近年、東アジアの発展が著しい。具体例としてラオスを挙げると目覚ましい経済発展で、2024年に後発開発途上国を脱するのではないかとの見込みもある。(United Nations,2018)それでは、東アジアの著しい発展の要因は何なのか?本稿では、東アジアが発展した背景について言及する。

2.成長の要因は「生産要素投入の増加」と「生産性の改善」にある

2章ではまず、経済成長の要因について簡単に説明する。例えば、2021年に100トンのスーツを生産していた工場がある。この工場が1年後に110トンの衣類を生産できたとする。ではなぜ、10%も生産量を増加することができたのか?答えは、①投入量増加と、②生産性の改善である。①の投入量増加に関しては、この工場が、労働者を増やしたり、機械の数を増やしたことが考えられる。このように労働者や機械(物的資本)といった生産要素を増やすことによって生産量を増加させることができる。②生産性の改善には、工場内部の機械の配置を変え、無駄な生産過程をカットしたことが生産を上げた要因になったと考えられる。

物質的資本の投入量という点で東アジア諸国は先進国にかなわないが、東アジア諸国がアフリカ諸国と比べて発展が進んだのは物質的資本への投資が進んだ結果であると考えられる。(黒崎,栗田,2016)

3.東アジアの奇跡を生んだ要因は?

それでは、なぜ東アジア地域は1960年代から1990年代にかけて目覚ましい経済発展を遂げたのか。背景には、①海外からの直接投資の増加、②先進国から技術移転が行われキャッチアップがしやすかったこと、③政府による市場介入と合理的な経済政策採用の成功が挙げられる。

第一に、海外からの直接投資の増加である。この30年間で東アジア諸国の外国直接投資(FDI)の量、貿易の総量がそれぞれ60倍~70倍、15倍に膨れ上がった。(浦田・三浦,2012)こうした投資・貿易の増加を通じて2章の①で述べたように物質的資本が蓄積され、生産量が増えたことが経済発展の一因になったと考えられる。

第二に、先進国から技術移転が行われ、キャッチアップがしやすかったことである。キャッチアップとは、途上国の1人当たりのGDPが徐々に先進国の水準に近づいていくことである。国別に見た1人当たりのGDPの変化(1960年~2010年)を見てみると1位が韓国の142.4倍、2位がシンガポールの108.8倍、3位が日本の90.0倍であるのだが、1960年~1980年に限定すると日本が1位である。(19.4倍)アジア地域の発展はまず日本が60年代に飛躍的な高度経済成長を遂げ、それを追うようにアジアNIEs(韓国、台湾、シンガポール、香港)が70年代から、次にASEAN中核諸国が80年代から、その次に中国、インド、ベトナムが経済成長を遂げていった。この発展の構図は雁行型発展と呼ばれている。先進諸国では、研究開発や技術革新によって新たな商品や産業が生まれるが、それによって時代遅れの商品・産業が出てくる。これが、労働力が安価で技術水準が低い後発の国に移転することによって後発国に技術の伝播と改善がもたらされ、2章の②で述べたような生産性の改善が行われ経済が発展したと考えられる。(黒崎,栗田,2016)


第三に、政府の市場介入の成功と合理的な経済政策の採用されたことである。時々の政策的介入が工業化を促進したり、輸出振興に繋がったことが明らかにされ、政策介入に否定的な立場を取っていた世界銀行も政策介入が経済成長を促進することを限定的に認めたことが注目を集めた。(Worldbank,1993)この背景には、東アジアには独裁に近い政治体制があることで、思想・信条の自由が制限される一方、豊かな国を目指すという経済成長主義とも呼べる方向で国民の意識を向けさせることができたとされる。(黒崎,栗田,2016)

4.中進国の罠

著しい発展を遂げる一方で、東アジア諸国は新たな問題に直面している。ポール・クルーグマンが東アジアの高度経済成長は労働や資本といった物的な資本が増えただけで、長期的な経済成長を支える技術や生産性の改善に乏しいため、早期成長が鈍化するという論文を世に送り出している。(Krugman,1994)

現在の東アジア諸国が直面している課題を解決するには、技術進歩やイノベーションが必要だと考えられる。明治初期のように、「少年よ大志を抱け」の言葉を残したウィリアム・スミス・クラーク博士など優秀な人材を招き、殖産興業を推し進めたように、高いコストを払いながらも、技術進歩を進め、自分の国だからこそできるものを全面的に押し出していくことや生産性の改善を進めることが今後重要になると考えられる。

【参考資料】
・Krugman,P.1994,『“The Myth of Asia’s Miracle,”Foreign Affairs,Vol73,No6.』(邦訳「まぼろしのアジア経済」『中央公論』1995年1月号)
・黒崎卓,栗田匡相,『ストーリーで学ぶ開発経済学―途上国の暮らしを考える―』,有斐閣ストウディア.

・United Nations,2018,『Department of Economic and Social Affairs ―Economic Analysis』.
・浦田・三浦,2012,『アジア域内の貿易と投資』,勁草書房.
・World Bank,1993,『World Development Report 2014:Risk and Opportunity―Managing Risk for Development, Oxford University Press.』

<文=末田椋資>

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