社会

高額療養費制度とは?自己負担上限額の引き上げは見送りへ

「高額療養費制度」における自己負担上限額について、引き上げに向けての議論が進んでいます。2025年8月から2027年8月にかけて段階的に引き上げる方針でしたが、今回は見送る方針となりました。

「高額療養費制度」は、 医療費が高額になった患者の自己負担を抑える制度です。人はいつ大病や大ケガをするか予測することができません。いざという時に備え、高額療養費制度の基礎知識をしっかり学んでおきましょう。

目次

  1. 高額療養費制度とは?
  2. 高額療養費の自己負担上限額
  3. 高額療養費の負担を軽くする仕組み
  4. まとめ

1.高額療養費制度とは?

高額療養費制度とは?

高額な治療を受けた場合に、患者の負担が重くならないようひと月あたりの医療費の自己負担に上限を設けている制度

高額療養費制度は、日本の公的医療保険制度の1つです。医療保険と一口に言っても、「公的医療保険」と「民間の医療保険」に分類されます。日本では民間の医療保険への加入は任意ですが、公的医療保険はすべての国民に加入が義務付けられています。これを「国民皆保険制度」と言います。国民皆保険制度は、全ての人が公的医療保険に加入し、保険料を支払うことでお互いの負担を軽くする仕組みです。アメリカなどでは国民皆保険制度が導入されておらず、医療費が高額になる傾向があります。

保険証を持参して医療機関で診療を受けた場合、自己負担は原則3割(1~2割の場合もあり)です。自己負担額が3割になったとしても、大きな病気や入院を伴う治療であれば多額の医療費を請求される可能性があります。しかし、高額な医療費を支払った場合は、高額療養費として払い戻しが受けられることがあります。患者の負担が重くならないよう、ひと月あたりの医療費に上限を設けています。

2. 高額療養費の自己負担上限額

自己負担上限額の概要

高額療養費制度における医療費の自己負担限度額は、年齢と収入に応じて定められています。この限度額を超えた分が高額医療費として支給されます。自己負担上限額は、70歳以上と69歳以下の2つの区分に分類されており、月ごとに設定されています。つまり、同じ月に複数の医療機関で受診した場合でも、合算して上限額を超えた分が高額療養費として支給されます。

69歳以下の方

  • 年収約1,160万円以上: 252,600円+(医療費-842,000円)×1%
  • 年収約770万円~約1,160万円: 167,400円+(医療費-558,000円)×1%
  • 年収約370万円~約770万円: 80,100円+(医療費-267,000円)×1%
  • ~年収約370万円: 57,600円
  • 住民税非課税世帯: 35,400円

70歳以上の方

  • 現役並み所得者:
    • 年収約1,160万円以上: 252,600円+(医療費-842,000円)×1%
    • 年収約770万円~約1,160万円: 167,400円+(医療費-558,000円)×1%
    • 年収約370万円~約770万円: 80,100円+(医療費-267,000円)×1%
  • 一般:
    • 年収156万円~約370万円: 57,600円(上限144,000円/年)
  • 低所得者:
    • 住民税非課税世帯: 24,600円
    • 住民税非課税世帯(年金収入80万円以下など): 15,000円

3.高額療養費の負担軽減の仕組み

高額療養費制度において、さらに負担を軽くする仕組みとして、「世帯合算」「多数回該当」「高額療養費貸付制度」の3つがあります。

多数回該当

「多数回該当」は、1年のうちに3回以上高額療養費制度を利用すると、4回目以降の自己負担上限額が引き下げられる制度です。通常、高額療養費の自己負担額には月ごとに上限が設定されていますが、頻繁に高額な医療費が発生する場合、その負担を軽くするために、3回目以降は、自己負担額の上限を引き下げる仕組みです。

世帯合算

世帯合算は、 一世帯内での医療費の自己負担額を合算し、世帯全体の負担を軽くする仕組みです。ただし、世帯内で同じ公的医療保険に加入していることが条件となっています。夫婦で別の公的医療保険(例えば協会けんぽと共済組合)に加入している場合は、医療費を合算することはできません。また、夫婦がともに被保険者(本人)である場合も、世帯合算の対象外です。

高額療養費貸付制度

高額療養費貸付制度は、高額な医療費の支払いが難しい方を支援するための制度です。医療費が高額になる見込みがある場合や、 高額な医療費を支払ったが高額療養費の支給が遅れている場合に 無利子で医療費を貸し付ける制度です。

4.まとめ

2025年8月から2027年8月にかけて、自己負担限度額が段階的に引き上げられる予定でした。しかし、野党やがん患者から反発の声が上がり、2025年8月の改定は見送る方針となりました。

高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げに関する議論は、今後の医療制度全体を支えるための見直しの一環です。制度を持続可能にするためには、一定の負担を求める方向は避けられないとも言えます。

見送りとなった改正案では、特に高所得者層に影響が大きいものの、中所得層や高齢者世帯にも波及する可能性があります。そのため、制度は「自分には関係ない」と思わずに、常に最新情報をチェックしておく姿勢が重要です。

<文=森 寛衆>

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