社会

なぜ途上国の教育なのですか?

目次

  1. なぜ途上国の教育なのですか?
  2. 公平性の尊重
  3. 人道的関心
  4. 国際的責任
  5. 国益の確保
  6. 相互の学び合い
  7. 最適解を探して

1.なぜ途上国の教育なのですか?

「なぜ途上国の教育なのですか?」このような質問は、途上国の教育支援に携わる人は、一度は聞かれる質問なのではないかと考える。本稿では、途上国の教育に関わることの意義を、『途上国世界の教育と開発』[i]を参照しながら公平性の尊重、人道的関心、国際的責任、国益の確保、相互の学び合いの5つの観点から考え、読者が何を重視するのか考えるきっかけをつくることを目的にする。


[i] 小松太郎,2016『途上国世界の教育と開発――公正な世界を求めて』,上智大学出版.

2.公平性の尊重

1つめは、自身の世代だけでなく、次の世代の公平性を保障したいと考えるためである。2015年、国連総会で合意された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)は、開発は貧困を削減し、人々の世界を豊かにするためのものであり、持続的な開発は資源が枯渇しない開発の在り方を目指すと理解されている。持続可能な開発を考えたブルントラント報告書『Our Common Future』は、公平性の観点から、持続可能な開発を「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」としている。そして、現世代と未来世代の間の公平性を保障しようとすれば、論理的に世代内つまり同世代に生きる者同士の公平性を確保する必要があると主張している。[i]具体例を挙げると、教育のアクセスが改善してきているが、経済的な理由で進学できないといった生徒が存在すると、我々はSDGsの第4目標である「公平で質の高い教育」を世代内だけでなく、次の世代が受けられるようにしようとする。これは、人道的関心、国際的責任の観点にもつながっている。


[i] 国連の委託により、元ノルウェーの首相ブルントラント氏が世界会議の議論をまとめた報告書(1987年)。

3.人道的関心

2つめは、教育の機会が保障されていない人に尊厳を持ったものを提供したいと考えるためである。人間は、生存や尊厳ある生活を保障するには、最低限の条件があり、それを満たしていくことを要求する。教育の機会が保障されていない人には生きていくために必要なものを提供しよう、という考え方の根底には人道的関心(humanitarian concern)がある。留意するべきことは、支援対象者のためでなければならないということである。支援対象国ではどのような教育が必要なのか?何が求められているのか?このような問いを考え、支援対象国に合った国際協力のコンテクストに合った国際協力の在り方を考える必要がある。これが出来ない場合、人道的動機のみによって行われる国際協力は、場合によって支援国、支援対象者の負担になる場合がある。具体例を挙げると、カンボジアの農村で井戸を掘った結果、その井戸水を飲み続けた村人が慢性ヒ素中毒を起こし、皮膚疾患や神経障害を起こし、最悪のケースでは死亡してしまうという事件が起きた。[i]


[i] 善意の井戸で悲劇1、カンボジアのヒ素中毒http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65228868.html  (2022年6月26日閲覧)

4.国際的関心

3つめは、グローバル社会の文脈の中で、国際的な責任を考えるためである。環境汚染や極度な貧困、内戦などの問題は、隣国や世界全体にその影響が及ぶ可能性がある。そのような問題に国際社会が協力して解決しようとする中、日本だけが加わらないという選択肢はないという考え方がある。

5.国益の確保

4つめは、国益を得るためである。過去の記事でも言及されているように[i]、国民の税金を用いるODA(Official Development Assistance)では、国益の観点があることに留意したい。例えば、農林水産省によると日本のカロリーベースの食料自給率は総合で、37%であった。[ii]資源が乏しい日本では、開発途上国から資源を確保することは必須であり、途上国が安定することは、日本の経済にとって重要なことである。


[i] Σtimes,戦後賠償としてのODA https://sigmatimes.com/2022/02/28/001-276/ (2022年6月26日閲覧)

[ii] 農林水産省,『令和2年度食料自給率について』,https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-2.pdf

6.相互の学び合い

5つめは、他国の開発を通じて自国の教育課題を考えるためである。これは、日本が、支援対象国に日本の教育経験を伝え、途上国が参考にするだけでなく、当事者からは見えにくい日本の学校文化に気づくことで教育とはどうあるべきかの最適解を考えるきかっけを創出することに貢献する。

7.考え続けること

本稿では、途上国の教育に関わることの意義を、『途上国世界の教育と開発』[i]を参照しながら公平性の尊重、人道的関心、国際的責任、国益の確保、相互の学び合いの5つの観点から考え、読者が何を重視するのか考えるきっかけをつくることを目的としていた。1つめの公平性の観点からは、自身の世代だけでなく、次の世代の公平性を保障したいと考えるためであった。2つめの人道的関心の観点からは、教育の機会が保障されていない人に尊厳を持ったものを提供したいと考えるためであった。3つめの国際的責任の観点からは、グローバル社会の文脈の中で、国際的な責任を考えるためであった。4つめの国益の確保の観点からは、国益を得るためであった。5つめの相互の学び合いという観点からは、他国の開発を通じて自国の教育課題を考えるためであった。もちろん、上記のような観点以外にも様々な理由が考えられる。本稿では、途上国の教育に関わる意義を問うたが、その問題だけに留まらず、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、多様な文化・価値観が存在する地球で、他者どう関わっていくか考え続けることが求められている。


[i] 小松太郎,2016『途上国世界の教育と開発――公正な世界を求めて』,上智大学出版.

<文=末田椋資>

当ライターの前の記事はこちら:国際的な学力調査PISA2018から何が変わったか――ICT環境の整備に着目して

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