目次
- SDGs4「質の高い教育をみんなに」とは何か?
- SDGsとMDGsの違い
- ターゲット1「無償・公正で質の高い教育を」
- ターゲット2「質の高い乳幼児・就学全教育を」
- ターゲット3「男女の区別なく高等教育へのアクセスを」
- ターゲット4「雇用、働きがいのある人間らしい仕事を」
- ターゲット5「全ての教育段階で脆弱な立場にある生徒のアクセスの確保を」
- ターゲット6「成人識字と基本的計算能力を」
- ターゲット7「持続可能な開発の促進に知識と技能の習得を」
- 行動の成果を求められる時代に
1.SDGs4「質の高い教育をみんなに」とは何か?
2015年9月に開かれた国連持続可能な開発サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、世界各地でSDGsの達成を目指し努力がなされている。今回の記事では、SDGsの第4目標で「ある質の高い教育をみんなに(具体的に述べると、すべての人々への包括的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する)」を取り上げ、7つのターゲットについて概説する。
2.SDGsとMDGsの違い
SDGsが誕生する前の国際開発の枠組みとして、2001年に合意されたミレニアム開発目標(MDGs)がある。このMDGsと比べて、SDGsが異なる点は大きく分けて2つある。
1つ目は、SDGsの対象が広いことである。目標とターゲットの数字だけを見てみると、MDGsが8つの目標と21のターゲットを掲げていたのに対し、SDGsでは17の目標と169のターゲットを設定していることから、世界が解決すべき問題と対象が拡大していることが分かる。 2つ目は、全世界が取り組むべき問題と強調されていることである。MDGsでは、途上国が達成すべき問題とされていたのに対し、SDGsでは、発展途上国、先進国問わず、取り組むべき課題とされている。この背景には、地球温暖化など、国境を超えて解決するべき問題に対する危機感の向上が挙げられる。
3.ターゲット1「無償・公正で質の高い教育を」
SDGs4のターゲット1は、「2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育・中等教育を修了できるようにする」である。注目すべき点は、MDGsの教育に関する目標では、教育の「アクセス」を強調していたが、SDGsではより教育の「質」に着目し、学習成果の達成を重視するために、初等教育(日本では小学校教育の段階にあたる)と、中等教育(日本では中学校の段階にあたる)の修了が目指されていることである。
4.ターゲット2「質の高い乳幼児・就学全教育を」
SDGs4のターゲット2は、「2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達・ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする」である。注目すべき点は、乳幼児のケアと就学前教育のアクセスに着目されているところであり、乳幼児期のケア・教育が強調される背景には、人間の発達には「臨界期」があり、この時期に適切な刺激やケアを怠れば、その後の発達に重大な影響を及ぼすとされているからである(小松,2016:176)。
5.ターゲット3「男女の区別なく高等教育へのアクセスを」
SDGs4のターゲット3は、「2030年までに、全ての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業訓練及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする」である。注目すべき点は、高等教育(日本では大学の段階にあたる)へのアクセスが強調されていることである。高等教育は、経済水準の向上による人々の教育需要の増加やグローバル化に対応できる人材の育成が求められ、ますます注目が高まっている。そのため、各国の高等教育を提供する機関は、教授言語を英語で統一する、他国の大学と協定を結び、ダブルディグリー制度(所属している大学と留学先の学士号または修士号・博士号を取得できる制度)を確立するなど、グローバル化を推進することで高等教育の質を高めつつ、高等教育のアクセスを高めるために奨学金制度の充実も同時に進んでいる。
6.ターゲット4「雇用、働きがいのある人間らしい仕事を」
SDGs4のターゲット4は、「2030年までに、技術・職業スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる」である。特に、ICTスキルを有する若者や成人の育成が目指されている。.ターゲット5「全ての教育段階で脆弱な立場にある生徒のアクセスの確保を」
7.ターゲット5「全ての教育段階で脆弱な立場にある生徒のアクセスの確保を」
SDGs4のターゲット5は、「2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障がい者、先住民及び脆弱な立場にある子供など、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする」である。このターゲット5では、脆弱層の教育のアクセスについて取り上げられていて、具体例を挙げると、発展途上国が教育のアクセスを進めた結果、就学率が大幅に上がったが、最後の5%から10%に至るまでが難しいと言われている。これは、その5%から10%の中に貧困層や少数民族、障がい者が含まれており、その達成はとても難しいとされている(黒田,2005:88)
8.ターゲット6「成人識字と基本的計算能力を」
SDGs4のターゲット6は、「2030年までに、全ての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする」である。世界では、15歳以上の約7億5000万人が非識字だとされ、その割合の約3分の2を女性が占めている。識字能力を獲得すれことは男女ともに、経済や社会貢献活動に参加することができ、その国の持続可能な発展及び社会形成に貢献すると考えられている。識字は、抑圧されてきた人日とのエンパワーメント(社会的、精神的に力をつけること)や尊厳の回復にも大きな力を持つ(小松,2016,209)。更に、女性にとって識字能力を獲得することは、保健・衛生・栄養などの知識を獲得することにより、出生率や乳児死亡率が低くなったり、子どもの就学率が低くなることが報告されている。(Rao, N., & Robinson-Pant, A, 2006)
9.ターゲット7「持続可能な開発の促進に知識と技能の習得を」
SDGs4のターゲット7は、「2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通じて、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする」である。これは、変革を促す内容であることが分かる。
10.行動の成果を求められる時代に
ここまで、SDGs4を概観してきたが、どれも目標であり法的拘束力はない。しかし、その進捗を図る232の指標が存在し、組織的で系統だった枠組みに沿って全ての国連加盟国が自主的に報告をするシステムができている。指標があることで、法的に強制力はなくとも、国連加盟国はこれらに取り組み、行動の成果を発表する必要が生じている。
【参考文献】
朝日新聞,『2030SDGsで変える』
https://miraimedia.asahi.com/sdgs-lecture/sdgs-lecture5/ ,(2022年8月24日最終閲覧).
外務省,『JAPAN SDGs Action Platform』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal4.html ,
(2022年8月24日最終閲覧).
小松太郎 (2016) 『途上国世界の教育と開発――公正な世界を目指して』上智大学出版.
黒田一雄・横関祐見子(2005),『国際教育開発論――理論と実践』有斐閣. Rao, N., & Robinson-Pant, A. (2006) Adult education and indigenous people: Addressing
<文=末田椋資>
当ライターの前の記事はこちら:国連システム―UNESCO、UNICEF、The world Bankの特徴
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