社会

就学前教育の可能性

目次

  1. 就学前教育が注目をされている理由
  2. ①身体的な発達
  3. ②知的な発達
  4. ③情緒的な発達
  5. ④非認知能力の向上
  6. 就学前教育の可能性

1.就学前教育が注目されている理由

近年、小学校入学前の準備教育とされている就学前教育が注目を集めている。その背景には、①身体的な発達、②知的な発達、③情緒的な発達、④非認知能力の向上が期待され、教育水準の向上や経済発展による貧困削減などの有効な手立てとなりうることが考えられていることにある。本稿では、就学前教育が注目されている理由について、①身体的な発達、②知的な発達、③情緒的な発達、④非認知能力の向上の側面から概説する。

2.①身体的な発達

身体的な発達の観点からは、人間の発達には臨界期(ある時期を逃したらその後大変な影響を及ぼす極めて重要な時期)が存在すると言われ、特に、乳幼児期に適切な刺激やケアを怠るとその後の発達に重大な影響を及ぼすと考えられているからである。例えば、「3歳以下で一定の期間眼帯をしていると弱視になる」など、乳幼児期の不適切なケアは様々な能力を阻害することが明らかにされている。就学前教育で乳幼児期の健康に気を配り、栄養摂取を推進することによって、健全な発育を進めることができる。

3.②知的な発達

知的な発達の観点からは、初等中等教育における就学や学習成果の向上を促し、留年や退学率を減少させると考えられているからである。これは、就学前教育を受けることによって、学校に通う、同級生と協調するなどの所作を身に付け、小学校・中学校のアクセスと質の拡大に繋がるという考え方に由来している。就学前教育を受けるメリットとしては、基礎的な学習を早期に行うことによって就学後の授業の理解が進むようになり、授業が分からずに留年・退学のリスクを減らすことが可能となる。それは、小学校の修学率を上げることや、中学校の進学にも大きな影響を与えることができる。このメリットは少数民族にもある。例えば、ラオスを例に挙げると、ラオスのとある村(少数民族の比率が約30%)では、留年する少数民族の児童が就学前教育の効果でほぼいなくなったとされている。背景には、村に幼稚園をつくり、そこで少数民族の子どもにラオス語を教えているため、ラオス語が原因での留年が激減したということであった(乾,2017)。ラオスのように、多民族国家では、国家を統一するという観点から、マジョリティの言語で教科書が作られたり、その言語で授業が行われることがある。そこで、普段はマジョリティの言語を用いない少数民族に対し、早期にマジョリティの言語に触れさせることによって少数民族の小学校・中学校の留年・退学を減らすことが期待される。

4.③情緒的な発達

情緒的な発達の観点からは、犯罪の抑止に繋がると考えられているからである。これを実証した研究で有名なのは、アメリカで行われたペリー就学プロジェクトである。このプロジェクトは、経済的に恵まれない3歳から4歳のアフリカ系アメリカ人の子供たちを対象に、毎日平日の午前中は学校で教育を施し、週に一度午後に先生が家庭訪問をして指導にあたるというものだ。約40年間に渡る追跡調査の結果、40歳になった時点で比較したところ、就学前教育の介入を受けたグループは比較対象グループと比べて、高校卒業率や持ち家率、平均所得が高く、また婚外子を持つ比率や生活保護受給率、逮捕者率が低いという結果が出た。これは、子どもたちに教育を早期から行うだけでなく、母親に子どもたちに適切な対応ができるよう指導することによって子どもたちが道徳的な振る舞いを身に付けると考えられるからである。

5.④非認知能力の向上

非認知能力の向上の観点からは、この能力を伸ばすことによって、社会的成功に貢献することが期待されているからである。非認知能力とは、達成に影響を与える性格特性や選好のことで、例えば、「真面目さ」、「開放性」、「外向性」、「協調性」、「精神的安定性」などであり、これら5つの特性は「ビックファイブ」と呼ばれている。ノーベル経済学賞受賞のヘックマンは、非認知能力について就学前教育で得られる学力の向上や犯罪の抑止などの狭い意味での貢献だけでなく、広い意味で社会的成功に貢献するためにもこの能力は必要だとしている。

6.就学前教育の可能性

本稿では、就学前教育が注目されている理由として、①身体的な発達、②知的な発達、③情緒的な発達、④非認知能力の向上の側面から概説した。この4つの要素以外にも就学前教育は、親と子に就学前教育を受ける過程を通じて、小学校に通う動機付けとなるなど様々な観点から研究が進んでいる。

【主要参考文献】

ジェームズ・J・ヘックマン著, 大竹文雄解説・古草秀子訳 (2015)『幼児教育の経済学』,東洋経済新報社.

小松太郎 (2016) 『途上国世界の教育と開発――公正な世界を求めて』上智大学出版.

【参考文献】

乾美紀, (2017) 「ラオスにおける学力調査の現状と格差是正の試み――地域間格差を中心に」,『比較教育学研究』,54号, pp174-186.

<文=末田椋資>

当ライターの前の記事はこちら:SDGs4「質の高い教育をみんなに」とは何か?

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