その他

自己決定理論とは?

目次

  1. 自己決定理論とは?
  2. ①認知的評価理論
  3. ②有機的統合理論
  4. ③因果志向性理論
  5. ④基本的心理欲求理論
  6. ⑤目標内容理論
  7. ⑥関係性動機付け理論

1.自己決定理論とは?

本稿では、自己決定理論(Self-determination Theory)を6つの理論に分けて説明する。自己決定理論とは、DeciとRyanによって提唱された人間の行動やパーソナリティの発達に関した統制的動機付け理論のことである。この理論では、人間の行動やパーソナリティの発達に関して統制的動機付けから自律的動機づけによって表現される個人差を仮定し、この動機づけの個人差は、自律性、有能感、関係性という3つの基本的心理欲求が満たされているかどうかによって生じると主張する。そして、これらの基本的心理欲求が満たされることによって、人としての適応的な発達や精神的健康、心理的成長を獲得できると想定している(Ryan &Deci,2017)。自己決定理論は、「認知的評価理論」、「有機的統合論」、「因果志向性理論」、「基本的心理欲求理論」、「目標内容理論」、「関係性動機づけ理論」の6つの下位理論に分けられる。

表1-1 自己決定理論における6つの下位理論の概要

(上淵,2019を元に筆者作成)

下位理論研究の時期理論の関心水準
認知的評価理論1970年〜内発的動機付けと社会的要因状況レベル
有機的統合理論1980年〜外発的動機付け(内発的動機付けも含む)と価値の内在化状況と文脈レベル
因果志向性理論1990年〜自律的、統制的、無価値的パーソナリティーとその個人差一般レベル
基本的心理欲求理論2000年〜心理的ウェルビーイングと自律性、無価値パーソナリティとその個人差一般レベル
目標内容理論1990年〜内発的vs 外発的人生目標一般レベル
関係性動機付け理論2000年〜親密な関係の中の欲求充足と自律性支援の役割状況と文脈レベル

2.①認知的評価理論

まず第一に、認知的評価理論とは、内発的動機づけのための理論である。内発的動機付けは課題自体の面白さや興味によって行動が生起されることを特徴とする。この内発的動機付けに影響を及ぼす社会的要因を明らかにし、そのメカニズムを体系化したのが認知的評価理論である。ここでいう社会的要因とは、お金による報酬、肯定的な言葉がけ、罰などのことである。認知的評価理論では、社会的要因を個人がどのように認知するかによってその社会的要因が結果的に個人の自律性を阻害するかどうか、また、個人の有能感を高めるかどうかの2つの観点から内発的動機付けの変化の説明を試みている。

3.②有機的統合理論

第二に、有機的統合理論である。有機的統合理論は、外発的動機付けのための理論である。

図1-1 有機統合理論で想定されている動機付けの概念図
Ryan&Deci,2017を元に筆者作成

具体的には、外発的動機付けとは、活動自体が直接関係のない目的を達成するための手段としての動機付けのことである。この理論では、活動に対する価値に着目し、外発的動機付けを、内発的動機付けとの関係を含めた形で相対的な自律性の程度(価値の内在化の程度)によって捉え直してる。1つ目は、外的調整である。報酬の獲得や罰の回避、または社会的な規則などの外的な要求に基づく動機付けを表す。具体的には、勉強をしないと親に叱られてしまうなどである。2つ目は、取り入れ的調整である。自我拡張や他者比較による自己価値の維持、罪や恥の感覚の回避などに基づく動機付けである。消極的であるがその行動の価値を部分的に取り入れているという特徴を持つ。例として、「勉強ができないと恥ずかしい気持ちになるから」などが挙げられる。3つ目は、同一視的調整である。例として「勉強は自分にとって重要だから」などが挙げられる。加えて、内的調整も提案されている。これは最も自己決定性の高い動機付けとして認識されている。例えば、「勉強することに楽しさを感じているから」などが挙げられる。また、これらの4つの調整スタイルについては「知覚された行動の因果の所在」という観点から、内的調整と同一的調整は自律的な調整スタイル、取り入れ調整と外的調整は統制的な調整スタイル(もしくは統合的調整)と二分されることがある。また、上述した以外にも、活動の価値と自己の欲求との調和がなされた状態を表す統合的調整が内的調整と同一視的調整との間にあり、活動の価値が見出せず行動意図との欠如を特徴とする無調整も想定されている。有機的理論の功績は、動機付けの変化を活動の価値をどの程度見出しているかといった点から捉えたことにある。そのため、動機付けの低い子どもに対してどのようにすれば動機付けを高めることができるのかと言った視点を持つことが可能になった。

4.③因果志向性理論

第三に、因果志向性理論である。因果志向性理論とは、動機付けの観点からパーソナリティの個人差に着目した理論のことである。これまで概観してきた認知的評価理論と有機統合理論は状況あるいは文脈レベルで論じられてきたが、因果志向性理論では、一般レベルでの話となる。まず第一に、自律的志向性である。この志向性は、自分自身を取り巻く環境に対して積極的に関わりあったり、自分自身の興味を表現しようとしたりする傾向を表している。第二に、被統制的志向性である。この志向性は、外的な評価に関心が向けられている傾向を表している。外的な報酬や社会的なプレッシャーを気にしすぎて、自分の興味や価値に重きが置かれていない傾向である。第三に、無価値的志向性である。この志向性は、目標達成に対して、無気力であり、結果に対して自分は何も影響を及ぼすことができないと考えることである。これら3つの志向性はどれか一つが個人に当てはまるというわけでもなく、個人のパーソナリティは3つの志向性のバランスによって特徴づけられるという意味である。

5. ④基本的心理欲求理論

第四に、基本的心理欲求理論である。この理論は、自己決定理論の中核となる3つの基本的心理欲求(自律性、有能感、関係性への欲求)とそれらの充足による効果をまとめた理論のことである。

6. ⑤目標内容理論

第五に、目標内容理論である。目標内容理論とは、人間の行動がどのような目標に向かって行われているかによって、精神的健康や心理的成長が変化することを体系化した理論のことである。ここで言う目標とは、人生全般における生き方に関する目標のことである。これまで紹介してきた下位理論を通じて、自律性、有能感、関係性への欲求を満たすことの重要性が主張されてきたが、では、いったいどのような人がこれら3つの基本的心理欲求を満たしやすいかと言った疑問に答えようとしたのがこの理論と考えて構わない。また、これまでの下位理論では、行動の理由(Why)に焦点を当ててきたが、目標内容理論では、行動が何によってなされるかと言う点に注目している。目標内容理論がwhat理論と言われる所以がこれである(Deci&Ryan,2000)。

7. ⑥関係性動機付け理論

第六に、関係性動機付け理論である。この理論では、他者との親密な関係の中でこそ得られる精神的健康に焦点を当てる。基本的心理欲求理論では、3つの基本的心理欲求が重要とされるが、それらの欲求を満たすためには親密な対人関係が不可欠である。

【参考文献等】

参考文献

上淵, (2019). 『新動機付け研究の最前線』, 北大路書房.

Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Intrinsic and extrinsic motivations: Classic definitions and new directions. Contemporary educational psychology25(1), 54-67.

Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2017). Self-determination theory: Basic psychological needs in motivation, development, and wellness. Guilford publications.

<文=末田椋資>

当ライターの前の記事はこちら:ゲームはどのように問題解決に貢献するか?②

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