日本の課題:科学技術競争力の低迷
毎年のように自然科学分野のノーベル賞受賞者を輩出している日本ですが、近年では科学技術競争力の低迷が懸念されています。2021年8月に文部科学省が公表したデータによると、過去3年間に発表された自然科学系の論文のうち、最も多かったのは中国(約35万3100報)、それに続くのがアメリカ(約28万5700報)、そこにドイツ(約6万8000報)と日本(6万5700報)が続きます。
また論文の「量」だけでなく、論文の「質」の指標である引用回数でも比較されています。引用回数が研究分野ごとの上位10%に入った論文の数でみると、中国が約4万200報となり「量」だけでなく「質」の面から見ても世界トップになりました。一方で日本(約3700報)はインド(約4000報)に抜かれて去年の9位から順位を落とし、全体10位という結果になっています(*1)。これらのデータは日本の科学技術力の低迷を指し示すデータと言えます。
このような背景には「科学技術を担う人材の減少」があるといわれています。少子高齢化によって次世代の科学技術の発展を担う若年層が減少していることに加え、博士課程進学が経済的に厳しい学生が多いことや、博士課程に進学しても専門性を活かせる職業に就きづらい現状が追い打ちをかけています。
(*1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210810/k10013192931000.html)
Society 5.0に向けて~博士人材のニーズ~
先に述べたような課題がある一方で、日本では政府が中心となって「Society 5.0」(*2)実現への取り組みを強化しようとしています。ここで対象とされている問題としては、たとえば温室効果ガスの削減や食料増産、持続可能な産業体制の構築、そしてニューノーマルな生活様式の提案などが含まれています。これらの問題は多くのステークホルダーが関与するため、解決に当たっては高い専門性に加えて、その課題に対する多角的な視点が必要となります。
そこで博士課程の学生を支援し、高い専門性と社会問題を見つめる多角的な視点を持った人材を輩出するための取り組みとして進められているのが「卓越大学院プログラム」です。
(*2:サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることによって、経済発展と社会的課題の解決を両立させるという未来社会の理想像)
卓越大学院プログラムとは?
平成30年度から実施されている「卓越大学院プログラム」は、各大学の強みを生かしつつ、海外大学や民間企業などの外部機関との連携を図り、世界でも高い水準の教育・研究力を有する5年一貫制の博士課程プログラムを構築するものです。
日本の科学技術競争力の向上やSociety 5.0への貢献を担うことができる専門人材「知のプロフェッショナル」といえる人材の輩出を目的としています。
平成30年度から、博士課程を設置している全国の国公立・私立大学からプログラムを募集し、独立行政法人日本学術振興会が運営する「卓越大学院プログラム委員会」の審査を経て、採択プログラムが決定されます。採択されたプログラムには中間成果を踏まえた予算が拠出されることになっています。
平成30年度から令和2年度までの間の採択実績は以下のようになっています(*3)。
- 平成30年度 38大学54件の応募 → 13大学15件の採択
- 令和元年度 22大学49件の応募 → 9大学11件の採択
- 令和2年度 27大学42件の応募 → 4大学4件の採択
1つの大学から複数のプログラムを申請することができるので、上記のような採択結果になっています。採択プログラムの分野は、医療、人工知能、農業、情報、流通、生命科学、エレクトロニクス、エネルギー、人文学、法律、通信など多岐に渡り、それぞれが社会課題とのつながりを強く意識した教育・研究プログラムとなっています。
(*3:文部科学省、報道発表、令和元年8月9日https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/08/__icsFiles/afieldfile/2019/09/06/1420053_001.pdf)
学生側のメリットは?
学生側から見たときの卓越大学院プログラムのメリットは何でしょうか?
まず1点目は、社会課題を強く念頭に置いた教育・研究に取り組めることです。社会課題の解決には大学などの研究機関だけではなく、企業や行政との連携が必要不可欠となります。
そこで卓越大学院プログラムでは複数のセクターを俯瞰して牽引できる人材を育成するために、企業や行政といった外部機関との連携が強く推進されています。「学」という単一の視点だけでなく、複数の立場から社会課題を見つめる視点を得られることが、卓越大学院プログラムの魅力の一つと言えます。
2点目は手厚い経済支援です。先ほども紹介した通り、学生が博士課程に進学することのハードルとなっているのが学費などの経済的問題です。
そこで多くのプログラムでは研究活動の対価としてRA費(RA:リサーチ・アシスタントの略)が支給されます。すなわち卓越大学院プログラムに進入した学生は経済的支援を受けながら、研究活動に取り組むことができます。
平成30年度から令和2年度までの間に採択されたプログラムについては、日本学術振興会のホームページから見ることができます。興味がある方はぜひご覧ください。
(日本学術振興会ホームページ:https://www.jsps.go.jp/j-takuetsu-pro/brochure.html)
〈文=早稲田大学 先進理工学部応用化学科 4年 千島 健伸(note)〉
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