目次
- 学歴と採用の関係性
- スクリーニング仮説(採用側の立場)
- シグナリング仮説(求職側の立場)
- 統計的差別理論 (採用側の立場)
- まとめ
1.学歴と採用の関係性
2021年12月、大手サービス会社マイナビが就活生に送信したメールのタイトルが物議を醸した。就活生が受け取ったメールのタイトルが「<第1>大東亜以下⑨」となっていたことで、学歴によって就活生を差別しているのではないかという批判を受け、マイナビは誤解を招く表現だとして謝罪を行った。しかし、実際問題として、企業が限られた資源の中でも優秀な学生を雇用するために、難関大学の学生を優先して採用するのは合理的とも言える。今回の記事では、スクリーニング仮説(採用側)とシグナリング仮説(求職側)、統計的差別理論(採用側)の立場からどのような学歴と採用の関係性について明らかにする。
2.スクリーニング仮説(採用側の立場)
まず、スクリーニング仮説とは、採用側と求職者側がお互いにお互いのことを理解し合っている(完全情報)の立場ではなく、お互いに情報を簡単に読み取ることが不可能である(不完全情報)という立場に立ち、採用側が学校での教育内容より学歴を重視する考え方である。なぜかというと、学歴にその人の訓練可能性を見出すからである。この仮説によると、企業が人材を採用する際、その人が職業上必要とする知識・技術は学校教育で身に付けると想定せず、入社後に身に付けると想定する。つまり、オンザジョブトレーニングや初任者研修などである。企業としては入社後に提供する職業訓練を身に付け戦力となる人材を求める。それを見分ける指標として学歴が用いられる。高い学歴は教えられたことを的確に身に付けこなし、テストの際に高いパフォーマンスを獲得した人材が獲得するもので、これを職業訓練の可能性と見なして採用・不採用を見極めるのは一定の経済合理性を持つ。しかし、学歴は教育の指標であり、職業の訓練可能性は経済の指標であるため、両者は必ずしも一致するとは限らない。この点で、大きなミスマッチが生じる可能性もある。ともあれ、一人一人の能力を測定する時間、コストを考えると学歴をスクーリングの指標として採用するのは合理的と言える。
3.シグナリング仮説(求職側の立場)
次に、シグナリング仮説とは、求職側の立場から学歴を重視する考え方である。シグナリング仮説もスクリーニング仮説と同じく、不完全情報の立場に立ち、求職者は自己に有利なシグナルを獲得しようと高い学歴の獲得を目指す。なぜなら、高い学歴は求職者の潜在能力を示すものとなる。スクリーニング仮説と異なるところは、学歴獲得にかかるコストをシグナル獲得後に得られるベネフィットと比較考慮し、学歴取得に向かうかどうか経済学的合理性に基づいて判断するというところにある。
4.統計的差別理論(採用側の立場)
最後に、採用側→求職側の順番と前後してしまうが、採用者側の立場から統計的差別理論を紹介する。この立場は学歴を重視するが、スクリーニング仮説とは異なり、訓練可能性が大事であるとは考えない。例えば、採用面接が進むにつれて誰を採用するかについて意見が分かれた場合に用いられる。スクリーニング仮説であれば高い学歴の学生を訓練可能性が高く良い人材になると考えるが、統計的差別理論ではそう考えない。どの企業の人事部にも、過去に入社した社員の経歴と業績についてポートフォリオやデータベースが蓄積されている。そのデータから学歴別に企業への貢献度を算出することができ、貢献度の高い人が多数在籍していた大学の求職者を採用するということがある。例を挙げると、1980年代の日本において、販売職やサービス職で、一流大学の学生よりも、体育会系の学生(団体競技)の学生が体力・社交性・協調性に富む人材と判断され、採用されていた背景がこのようない観点から説明することが可能となる。
5.まとめ
本稿の目的は、スクリーニング仮説、シグナリング仮説、統計的差別理論の立場から、どのような学歴と採用の関係性があるか明らかにすることであった。本稿から、学歴は採用の一基準として学校で習った教育内容(学習歴)より、重視される可能性が示唆された。各仮説・理論から具体的に説明する。スクリーニング仮説では、教育内容より、学歴を獲得するために、知識を身に付けテストで高いパフォーマンスを得た過程に訓練可能性を見出し、採用を行っている。シグナリング仮説では、スクリーニング仮説と類似する仮説であり、高い学歴を得ることによって求職者が自らの市場価値を高めようとする考え方であった。スクリーニング仮説と異なる点として、学歴獲得にかかるコストをシグナル獲得後に得られるベネフィットと比較考慮する点が挙げられた。最後に、統計的差別理論では、スクリーニング仮説と同じく、学校での教育内容より学歴を重視する考え方であった。しかし、訓練可能性よりも学歴別の企業への貢献度で求職者の採用を決めるという点がスクリーニング仮説と異なっていた。
<文=末田椋資>
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