社会

ラオスにおける学習危機問題

目次

  1. はじめに
  2. 教育のトレンド—Education for Allから学習危機まで
  3. なぜLearning Outcomesが重要なのか?

1.はじめに

本稿では、過去から現在に至るまでの教育のトレンドを外観し、学習危機が喫緊の問題になっていることを示した後、東南アジアのラオスを事例に学習危機問題を、Learning Outcomesの観点から概説する。

2.教育のトレンド—Education for Allから学習危機まで

1990年、多くの発展途上国の教育課題を解決しようと、タイのジョムティエンで万人のための教育世界会議(World Conference on Education For All)が開かれた。この会議では、2000年までに、初等教育のアクセスの普遍化と成人識字率の半減を目指し、行動することが決定された。しかし、2000年に近づいても、達成にほど遠いことが明らかになった。その反省を踏まえて、2000年には世界教育フォーラムがセネガルのダカールで催され、ダカール行動枠組みが設定された。この目標では、就学前教育の拡大と改善や、教育における男女の平等などが目指された。同年、国連ミレニアム・サミットがアメリカのニューヨークで開催され、ミレニアム開発目標 (Millennium Development Goals、通称MDGs)が採択され、2015年までに、発展途上国が極度の貧困と飢餓の撲滅を目指し、8目標・21ターゲットが設定された。MDGsの教育目標であるMDGs2では、2015年までに、すべての子どもたちが、男女の区別なく、初等教育の全課程を修了できるようにすることが目指された(UN,2000)。2015年には、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、通称SDGs)がニューヨーク国連サミットで採択された。SDGsは、誰1人取り残さないをスローガンに、経済成長、社会的包摂、環境保護をメインのGoalとして2030年までに達成されるべき問題とされた。MDGsとの違いは主に2つある。第一に、対象が発展国途上国だけでなく、先進国も含まれることである。第二に、ターゲットが8目標・21ターゲットから17目標・169のターゲットに拡大したことである。SDGsの教育目標であるSDGs4では、質の高い教育をみんなにをスローガンに教育の質の向上を目指している。その背景には、MDGs2は実際に初等教育の普遍化をほぼ達成した一方、教育の質について課題を残した点が挙げられる。SDGsの進捗として、教育へのアクセスが飛躍的に向上したことが挙げられる。その一方で、教育の質はいまだ改善の最中にある。世界銀行(2018)は、学校に行っているけど学んでいないことを”学習危機(Learning Crisis)”と定義し、警鐘を鳴らしている。世界銀行は学習危機は、Learning Outcomes, Immediate causes, Deeper causesの3つの側面があるとした世界銀行(2018)。本稿では、Learning Outcomesに焦点を当てて説明したい。

3.なぜLearning Outcomesが重要なのか?

教育の質を改善することは、国の経済発展や個人のエンパワーメントに貢献する。マクロな観点からは、識字率が上がることによって、国民の生産性が上がることによって、経済成長の向上が期待できる。ミクロな視点からは、個人が識字や計算をできることは、薬の飲み間違いやお釣りのごまかしなど、生活を円滑に進める上で重要な役割を果たす。特に、Learning Outcomesは客観的指標として用いられ、Learning Outcomesの改善は開発の目標を達成する上で重要であるとされている。

UNICEF(2019)は、Learning outcomesを測ることは、教育の質の改善や公正に貢献するとしているUNICEF(2019)。近年は,多くの国々で初等教育の普遍化が進んだにも関わらず、Learning Outcomesが低いことが問題となっている。前述のように、学校に行っていることが学んでいるとなるわけではないことが分かる。また、学年ごとに期待されるレベルの学力が得られていないことも課題となっている。

図1. 生徒は年ごとの予想される学力より学ぶことは少なく、早い学年の低学力は年を経るにつれ差が大きくなる

参考:世界銀行(2018)を参考に筆者作成。左が数学で右が言語。
青線 予想された学力、オレンジ線 測定された学力

例えば、図1は、インドで3年生から9年生の予想される学力のパフォーマンスと実際のスコアの差を示した図である。見て分かるように、予想された学力と実際の学力では大きな差があることが分かる。

次に、東南アジアに位置する発展途上国、ラオスのケースを例に学習危機の問題を分析する。ラオスは、初等教育1年生における純就学率が98,1%と、ほぼ100%に達しているにも関わらず、初等教育5年生(ラオスの初等教育における最終学年)の卒業率は77.1%と、約20%もの差が生じている。この20%の差は、貧困の問題や家族の問題など様々な理由が考えられる。その中でもラオスの文脈においては、最も大きな影響を与える要因の一つとしてCerdan(2016)は教育の質が低いことを示している。更にラオスは、東南アジアの中でもlearning Outcomesの達成に苦労している国の一つである。

図2:東南アジア6カ国の最低限の読みと書き能力を持つ小学校最終学年の割合

参考:UNICEF(2019)を参考に筆者作成

図2が示すように、ラオスは最低限の読み能力を持つ人が2%、最低限の数学能力を持つ児童が8%と他の東南アジアの発展途上国と比較しても極めて低い数値を記録していることが分かる。

【参考文献等】

Cerdan-Infantes, P., Marshall, J. H., & Naka, E. (2016). Reducing Early Grade Dropout and Low Achievement in Lao PDR: Root Causes Research and Possible Interventions. Care International, Dubai Cares, and World Bank, Vientiane, Lao PDR.

https://documents1.worldbank.org/curated/en/161641483590757065/pdf/111627-REVISED-PUBLIC-Lao-PDR-Root-Causes-of-Early-School-Leaving-f.pdf

UNICEF & SEAMEO. (2020). SEA-PLM 2019 Main Regional Report: Children’s learning in 6 Southeast Asian countries. Bangkok,  Thailand.https://www.seaplm.org/PUBLICATIONS/regional%20results/SEA-PLM%202019%20Main%20Regional%20Report.pdf

United Nations. Department of Public Information. (2000). United Nations Millennium Declaration. United Nations, Department of Public Information.

https://heinonline.org/HOL/Page?handle=hein.journals/jura2012&div=26&g_sent=1&casa_token=

United Nations, Department of Economic and Social Affairs. (2023). Sustainable Development Goals.

https://sdgs.un.org/goals

World Bank. (2018). World development report 2018: Learning to realize education’s promise. The World Bank.

https://www.worldbank.org/en/publication/wdr2018

<文=末田椋資>

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