目次
- はじめに
- 廃棄物問題をめぐる都市―農村関係
- 廃棄物処理場の設置・操業をめぐる行政と住民とのやりとり――長野県阿智村の事例を引用して
- 産業廃棄物処理場の設置・操業についてのアセスメントについての提言
- 結語
1.はじめに
近年、ゴミと廃棄物問題が話題になっている。人口の増加に伴い、ゴミの量が増えることが懸念され、ゴミ処理場の確保やゴミを焼却する際に生じる二酸化炭素の排出で地球温暖化の進行が懸念される。環境省によると、令和元年度のごみ総排出量は4272万トンで、これは東京ドーム約115万杯分に相当し、国民一人一日当たりのゴミの排出量は918グラムとされる。(環境省,2021)OECDのデータによると、日本はゴミを焼却する割合がグローバルな観点から見て、高いことが指摘されている。(OECD,2013)英国グラスコーで開催されたCOP26では、岸田首相が石炭火力発電からの撤退について言及せず、気候変動対策に消極的な国に送られる「化石賞」に選ばれている。(SDGsACTION!,2021年12月9日取得)
では、日本の産業廃棄物を巡る問題はどのように展開していったのであろうか?戦後日本においては、開発は希望であり、それを受け入れる人々を主体かしていく効果を持っていた。(町村,2006)開発に伴い、産業廃棄物の問題が深化していき、工場排水の影響で、熊本県では水俣病、富山県ではイタイイタイ病が発生し、地域住民に健康被害を与えることとなった。三重県四日市ではコンビナートで発生した大気汚染による四日市ぜんそくが問題となった。 しかし、産業廃棄物の処理場の設置・操業については、四大公害病と比較し、産業廃棄物についての詳しく知る機会が少なかった。そこで、本稿では、産業廃棄物の設置・操業問題に関し、主要な関与集団である行政機関、住民に対する実証的な社会学研究から得られた先行研究をまとめ、考察を行い、産業廃棄物処理場の設置・操業における問題の解決策を提示する。
2.廃棄物問題をめぐる都市―農村関係
ここでは、廃棄物問題をめぐる都市と農村の関係について述べる。都市が膨張する過程で、農村の補給する人口と資源を過剰に吸収し、その一方で、原子力発電所や廃棄物の処理を農村に押し付けてきた。(飯島,2001:25-26)産業廃棄物の特徴としては、一般廃棄物とは異なり、その処分の特殊性から広域に移動することが挙げられる。(飯島,2001:33-34)そのため、地域格差を生じることがある。具体例を挙げると、1991年に世界銀行の内部文書には、途上国は先進国に比べて規制も弱く、もともとの汚染も少ないため、環境保全のコストも低くすみ、人々の環境への希求も薄いという理由で、先進国から第三世界への有害廃棄物輸出が擁護されていた。(Bullard ed,1993:20)この例からも読み取れるように、排出地での環境対策の結果としてより濃縮した有毒物を人間に影響が少ない処分地に集中させることにもつながり、産業廃棄物は、過疎地などでの問題として顕在化してきた。
3.廃棄物処理場の設置・操業をめぐる行政と住民とのやりとり――長野県阿智村の事例を引用して
ここでは、産業廃棄物処理場をめぐる攻防を、行政機関、住民の観点から問題を考察・分析する。廃棄物行政における地方自治体の権限と役割について、都道府県と市町村でその権限に大きな相違があり、また、住民との関係の強さについても大きな相違がある。具体的に言うと、都道府県は廃棄物処理施設の設置・操業についての許認可権を持っていることに対し、市町村はその設置・操業に関して地元住民の意見を徴して、当該都道府県知事に意見を表明することができるということに留まる。(2001,飯島:72)そのため、小さな町村では、住民の意向が反映される傾向がある反面、町村の首長によるリーダーシップによる政策の幅が大きい事が問題となっている。長野県阿智村では、産業廃棄物処分場を村当局が積極的に誘致し、村内の合意を得るために「社会環境アセスメント」を実施した。同村の処分場計画を巡って3つの点が反対の立場の住民から提起された。1つ目は、村内の地域格差をより一層拡大するのではないかという批判である。村は、こうした批判に配慮し、周辺地域に付随施設を建設するという条件を提示して、地元住民の合意を取り付けようとした。2つ目は、長野県庁の廃棄物処理政策における経緯に関しての問題であった。阿智村より、阿智村を含む長野県南信地域の会合で先に合意を取り付けている過程が住民無視であると批判を受けた。3つ目は、事業計画実施のためのアセスメントであったことだ。これが明らかになり、県内の廃棄物処分場に反対する運動体から激しく批判された。(土屋,2000)
4.産業廃棄物処理場の設置・操業についてのアセスメントについての提言
ここでは、前段で取り扱った産業廃棄物処理場の設置・操業についてのアセスメントでは、住民の理解が問題に挙げられたが、この課題をどう解決に導いていくか解決策を2つ提言する。
第1に、産業廃棄物により、住民に健康被害が持たされた場合にどう対応するかマニュアルを十分に検討しておくことである。例えば、原子力発電を行う際に生じる核のゴミを廃棄するために、村が廃棄物処理場の候補に挙がっていたとする。その地域の住民に理解をしてもらうためには、想定外だと思われることも予測し、その時の対応についてマニュアルを作成しておく必要があると考えられる。東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故で、危機管理の杜撰さが露呈された。確かに、13メートルの津波が来ることは予期することが不可能だったかもしれない。(東京電力, 福島第一原子力発電所を襲った地震及び津波の規模と浸水状況)しかし、福島第一原発の事故が起きた今、想定外とも思われることについて検討を進めていく必要がある。より詳しく検討していくと、事故が起こった場合の対応法を示し、どう対応すれば良いか、自治体が主導して避難訓練を繰り返し行うことが必要だと考えられる。もちろん、どこまで危険か科学的な根拠がない場合もあると考えられる。その場合でも、準備をしていくことが、最悪の事態が発生した時に、地域住民の命を守ることに繋がると考えられる。
第2に、産業廃棄物処理場を設置・操業することのメリット・デメリットを詳しく説明することである。産業廃棄物処理場を設置・操業することに、多くの人は抵抗感を示すことが考えられる。産業廃棄物処理場を無条件で受け入れる自治体は皆無だと考えられ、国の施策では、産業廃棄物の処理場の建設を前向きに検討してもらうために、交付金を支給する施策がある。核のゴミの最終処分場の選定を巡り、調査は三段階に分けて行われる。文献調査と呼ばれるものはその第一段階で、調査期間は2年程度である。文献調査での交付金は1年ごとに10億円の交付金が支給され、最大2年間で20億円の交付金が支給される。調査を受け入れた北海道の神恵内村の令和2年度の予算は約20億円で、この内の10億円は年間予算額の半分を占める規模で、かなり大きな額ということが分かる。神恵内村は診療所の医療機器やごみ収集車の購入費などに充てるとし、令和2年度の予算に事業費として計上している。
第4章 結語
ここでは、廃棄物処理をめぐって、都市―農村の関係について説明をし、産業廃棄物処理場の設置・操業をめぐって行政と住民との関わり合いについて考察し、住民に健康被害があった時の対応法の検討、受け入れる時のメリット・デメリットについて言及することが求められるとの提言を行った。本稿を通じて、産業廃棄物の処理場の設置・操業について、住民の理解を得ることが不可欠だと考えた。短期的に信頼関係を築くことはとても難しいが、お互いが納得するまで、話し合いを継続していく事がとても大事だと考えた。
<文=末田椋資>
当ライターの前の記事はこちら:東アジアの奇跡を生んだ要因は?
株式会社シグマライズでは、23卒向けに「就職支援コミュニティ【α】」というLINEのオープンチャットにて就活生の支援を行っています。22卒のコミュニティ参加者にもサポーターとしてコミュニティに残ってもらっていますので先輩に相談することも可能です。
サービスの詳細について知りたい方は、こちらのサービス紹介ページから詳細確認下さい。