勉強法

学び方を学ぶことによる短期的な成績向上

目次

  1. 魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよう
  2. メタ認知と自己調整学習アプローチとは
  3. 結論―短期的な成績向上―
  4. メタ認知と自己調整学習の可能性

1.魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよう

「授人以魚 不如授人以漁」という老子の格言がある。これは、飢えている人に対して、人に魚を与えれば、一日で食べてしまうが、釣り方を教えれば一生食べていけるという考え方がある。では、これを教育の分野に応用して、学び方を覚えたらどうなるか?今回も、そういったメタ認知と自己調整学習アプローチ(Metacognition and self-regulation)を行うと成績向上にどのような効果があるのか、246個の先行研究を分析した調査を紹介する。

2.メタ認知と自己調整学習とは

はじめに、メタ認知(Metacognition)とは、自分の思考プロセスを認識し、その背後にあるパターンを理解することである(Metcalfe, 1994)。例えば、記憶は主観的で曖昧であるが、記録は客観的で見返すことができるので分析することが可能になる。メタ認知について、より具体的に言うと、「メタ認知的知識」と「メタ認知的活動」 に分類される(三宮、2008)。前者は、認知的特性や課題・方略に関する知識のことであり(例えば「会社の日報を作成するのに1時間かかる」という知識など)、後者は、認知的特性について自覚したり、コントロールしたりするような活動のことである(例えば、「会社の日報を作成するのに、以前は1時間かかったが、今回は、55分で作成できるようにタイピングを早くする、日報のアウトラインを考え、入れたい情報を明確にし、効率よく情報収集するなど」)。このように、自身の思考プロセスを認識し、その背後にあるパターンを理解した上で、行動を行うことでパフォーマンスを上げることができる。


次に、自己調整学習(Self-regulated learning)とは、学習の認知的、動機付け的、感情的側面を理解するための中核的な概念的枠組みである(Metacognition, 2021)。また、自己調整学習の考えにおいては、学習活動の基礎に、Plan(計画)、Do(実行)、See(評価)のサイクルが想定されている。まず、「計画」の段階では、目標設定の仕方や 自己効力感が重要になる。例えば、遠すぎる目標を立てて自己効力感を低めることになると、その後の行動が維持しにくくなる。「実行」の段階では、単に学習活動を実行する のではなく、「メタ認知」が重要となってくる。多くの場合、学習の計画、振り返り、評価の方法などを教えることが挙げられる。例えば、どんな学び方があるか知る、今勉強している内容に合わせて自分で学び方を考えるなどが挙げられる。

3.結論―短期的な成績向上―

結論として、メタ認知と自己調整学習は、生徒の成績にポジティブな効果(+7か月分)があることが示された。具体的に言うと、小学生では、約8か月分の効果、中学生では約7か月分の効果が示された。加えて、数学と科学で特に有効であることが示された。更に、グループ学習に導入、生徒が話し合いを通じて自分の考え方を明確にすると更に有効であることが示された。デジタル技術を利用した研究、例えば、学習の足場を作るインテリジェントな個人指導システムも、生徒の成果に特に高い影響を与えたことも分かった。

また、この研究から、教師は、自分自身の思考プロセスをモデル化することで、メタ認知・自己調整ストラテジーの効果的な使用を示すことができることが示唆された。例えば、教師は文章を解釈するときや数学の課題を解くときに、授業の目標に関連したメタ認知的な話を促し、発展させるのと同時に、自分の考えを説明することができる。加えて、プロフェッショナル育成は、メタ認知ストラテジーを教えることへの理解とともに、メタ認知と自己調節のメンタルモデルを開発するために使用することができることも示唆された。 不利な立場にある生徒においては、メタ認知・自己調整方略を明示的に教えられなくても、その方略を使う傾向が低いことを示唆するいくつかの証拠がある。そのため、メタ認知・自己調整方略を明示的に教えることで、そのような生徒が将来これらのスキルをより頻繁に練習し、使用するようになる可能性がある。明示的な指導とフィードバックがあれば、生徒がこれらの方略を自主的かつ習慣的に使う可能性が高くなり、将来、自分自身で学習を管理し、課題を克服することができるようになることが期待された。

4.メタ認知と自己調整学習の可能性

Panaderoら(2017)は、メタ認知と自己調整学習の可能性について、主に2つの結論に達している。第一に、SRLモデルは統合的で首尾一貫した枠組みを形成しており、これを基に研究を行い、生徒がより戦略的で成功するよう指導することが期待される。第二に、利用可能なメタ分析的証拠によれば、生徒の発達段階や教育レベルの違いに照らして、SRLモデルの効果には差がある。従って、研究者や教師は、学生の学習とSRLスキルを向上させるために、SRLモデルや理論のこのような差異効果を適用し始める必要があると指摘した。

【参考文献】

Metcalfe, J., & Shimamura, A. P. (Eds.). (1994). Metacognition: Knowing about knowing. MIT press.

Panadero, E. (2017). A review of self-regulated learning: Six models and four directions for research. Frontiers in psychology8, 422.

Metacognition and self-regulation (2021)EEF.

『メタ認知研究の背景と意義メタ認知 学習力を支える高次認知機能』. 北大路書房 pp.1-16.

【参考サイト】

教育のスゴい論文https://note.com/sugo_ron/n/na85d9b26d5e7 三宮真智子.(2008).

<文=末田椋資>

当ライターの前の記事はこちら:生徒の学習動機は何から生まれるか?

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