皆さんは「孟母三遷(もうぼさんせん)」という言葉をご存じでしょうか。漢文の授業で習った方も多いかもしれませんが、念のため説明すると
はじめ、孟子とその母親は墓場のそばに住んでいました。孟子が葬式のまねばかりしているのを見かねた母親は市場近くに転居しました。ところが今度は孟子が商人の駆け引きをまねるので、次は学校のそばに転居しました。すると礼儀作法をまねるようになったので、これこそ教育に最適の場所だとして定住したという故事。【1】
つまり「子供の教育には環境が大切」という教えなのですが、このことは幼少期の孟子に限らず、現代社会を生きる私たちにも当てはまります。
テレビが付いている時より消えている時の方が勉強に集中できるでしょうし、ひどい夏の暑さの中、エアコンを使わずに窓を閉め切っていたら、もはや仕事どころではないでしょう。
今回の記事では、企業や個人レベルで「環境づくり」がどれほど重要視されているかご紹介していきたいと思います。
目次
- Googleも認める「環境の力」
- 「次世代型シェアオフィス」登場
- ミニマルに生きる理由
- まとめ
Googleも認める「環境の力」
2016年、Googleがニューヨークのオフィスにてとある実験を行いました。【2】
それは、オフィスに設置されたスナック置き場とドリンクバーの距離を変えて社員の行動にどのような変化が起こるか観察する、というものです。
実験結果は、「スナック置き場とドリンクバーが近いと、お菓子を食べる確率が高まる」というものでした。女性で13%から17%、男性に至っては12%から23%まで食べる確率が上昇したそうです。
当たり前ですが、お菓子の食べ過ぎは肥満や様々な疾患に結びつきます。仕事中にお菓子を食べる確率が高くなることで、そうした健康リスクは高まるでしょう。たかがドリンクバーの置き方一つで健康状態が左右されてしまうというのは恐ろしいですね。
この実験から分かるように、人間は知らぬ間に環境からの影響をもろに受けています。
Googleがこのような実験を行っているのも、「環境の力」を認めているからに他ならないでしょう。
「次世代型シェアオフィス」登場
日本でも、オフィス環境に関する新たな取り組みが始まっています。
2019年2月に株式会社point 0が設立され、次世代型シェアオフィスである「point 0 marunouchi」がオープンしました。【3】
このプロジェクトには、空調世界ナンバーワンのダイキン、照明のパナソニック、トイレのTOTO、飲料のアサヒ、オフィス家具のオカムラをはじめとする各分野のトップランナー達が業界の垣根を越えて参画しており、様々な分野の技術とノウハウを結集して「新たなオフィス環境づくり」が進められています。
point 0 marunouchiの様子を見てみると、スペシャリティーコーヒーが飲めるカフェ、作業効率を高める仮眠ブース、豊富な緑、無料のシャワールームが備えられているほかに、なんと瞑想・ヨガルームまで設置されているというから驚きです。
この取り組みを見ても、「働くこと」にとってオフィス環境がどれだけ大切か、お分かりいただけると思います。
ミニマルに生きる理由
必要最小限の物品だけをもって生活している人のことを「ミニマリスト」と呼びます。この言葉は2015年の「新語・流行語大賞」にノミネートされており、注目度の高さがうかがえます。
(興味のある方はぜひネットで「ミニマリスト」と検索してみて下さい。彼らの所持品の少なさは衝撃的です。)
彼らが物を持たない暮らしをしている理由の一つとして挙げているのが「効率化」だそうです。
ミニマリストであり、『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス)の著者でもある佐々木典士(ささきふみお)さんは、沢山の物に囲まれていた時のことを思い返して、このように言っています。【4】
(ミニマリストになって)時間の有効活用ができるようになったことは大きいと思います。なかなか意識することはありませんが、人間って1日に10分は何かしらの探し物をしているそうです。これは一生分に換算すると150日でして、僕はその内かなりの日数を得しているなと。
その他にも、物を減らすことによって「気持ちに余裕が生まれる」、「無駄遣いが減る」、「自分にとって本当に重要なことがクリアになる」といった効果を得られるそうです。【5】
つまり、ミニマリストの生き方というのは、単に「物を手放す」ことではなく、「ノイズを取り去り、環境を整え、集中すべきことに向き合う」生き方だと言えると思います。
まとめ
- 世界のトップ企業も認める「環境の力」
- 新しい働き方にこたえるべく、「新しいオフィス環境」も模索中
- ミニマルな生き方の核心は「環境を整えること」
どの取り組みもすごいですね。それだけ「環境の力」が広く知られ、投資する価値があるとみなされているという事だと思います。
では次に、あなた自身が身を置いている環境に目を向けてみて下さい。
どうですか?楽しく快適に仕事できそうでしょうか?集中して勉強に取り組めるでしょうか?
身の回りの環境を整える、という事に関しては、普段だと忙しくて何かと後回しにされてしまいがちですが、まとまって時間の取れる長期休暇などに少しずつ取り組んでみてはいかかでしょうか。やれば必ず生活の変化を実感できますし、環境づくりに投資した時間は生活の効率化によって十分取り返せると思います。
次回以降の記事では、環境を整えるための手軽で具体的な方法を紹介していきたいと思います。
参考文献
〈文=早稲田学 先進理工学部応用化学科 2年 千島 健伸(note)〉
当ライターの前の記事はこちら:CO2削減だけが環境対策か『ほんとうのエネルギー問題』